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第十章・18
ルキアノスは、おくるみに包まれた本物のファタルを抱き、法皇の間まで一直線に進んでいた。
「困ります、ルキアノス様。謁見願いを提出してください。法皇様にお会いするには、手続きを」
「そんな暇はない」
「せめて衛兵を通して……」
「くどい!」
法皇神殿で働く神官は、至極まっとうなことをルキアノスに望んでいるのだが、このタンの神騎士は急いていた。
(傀儡をファタルの代わりにするなど、もっての外だ)
気高く慈悲深い法皇が、本物のファタルに実験動物並みの扱いをさせる、という点も腑に落ちない。
「御乱心あそばされたとしか、思えん」
「御乱心はあなたですぞ、ルキアノス様。お止まりください!」
神官も衛兵も蹴散らし、ルキアノスは法皇の間へと足を踏み入れた。
「法皇様!」
玉座に座った法皇は、ただ事ではないルキアノスの剣幕にも全く動じず、眼の動きだけで周囲の神官・衛兵を下がらせた。
扉はぴたりと閉じられ、室内には二人が残された。
「どうした、ルキアノス。お前らしくもない」
「恐れながら、らしくない方はあなた様でございます。ファタルは何処に?」
ルキアノスの剣幕を受け流し、法皇は、いやジーグはゆったりと応えた。
「降臨の儀式でも明るみにしたとおり、ファタルには法皇の間のさらに奥の間でくつろいでいただく。最も安全な場所で、な」
「それは、偽物の正体がばれぬよう閉じ込めておく方便では!?」
「偽物、と? ルキアノス。それはファタルに不敬であるぞ」
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