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第十章・19

 真のファタルは、ここにいらっしゃる、とルキアノスは白金のおくるみを掲げた。  スライドが開き、あどけない赤ん坊の顔がのぞいている。  無垢な笑顔は、ジーグの胸に突き刺さった。 「その奥にいるというファタル、ここにお見せいただきたい!」  どこまでも真っ直ぐなルキアノスに、ジーグの心は焼けついた。  ルキアノス。普段は誰より人間臭いくせに、ここぞという時には融通が利かないほど正義を振りかざす。  憎い。  憎いぞ、ルキアノス。  どこまで俺の、俺たちの邪魔をする!?  法皇は、ジーグは玉座から立ち上がった。 「私に刃向かうは、ファタルに刃向かうと同じこと! ルキアノス、お前を反逆者とみなす!」 「何ですって!?」  その声を聞いた途端、ルキアノスは踵を返して逃亡を開始した。  謁見は失敗だ。  ここはひとつ身を隠して、機会を窺うしかない! 「反逆者、ルキアノスを追え!」  背中から、法皇の容赦ない言葉が浴びせられた。 (追討!?)  身を隠す猶予も与えられない、というわけか。  そう思ったルキアノスは甲冑の翼を広げ、天高く上昇した。  追討となると、神騎士が遣わされるに違いない。  どこまでも果てしなく逃げおおせるために、ルキアノスは聖地をも抜けようと考えた。  ファタルの無事を護るために、三次元まで逃げる覚悟で飛び続けた。

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