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キスだけだから…⑴

「ショウ先輩!」  部活の最中に、後輩に声をかけられた。200mを3本走ったあとだったから、汗をぼたぼた垂らしながら後輩に近寄ると、笑いながらタオルを渡してくれた。 「あっち、弓道部の先輩が呼んでます」 「弓道部………、マコト!?」 「……た、たぶん」  俺の驚き様に、後輩はびっくりしたらしい。じゃあ失礼しますと早々に自分の練習に戻っていった。  マコトと付き合い始めて3ヶ月。マコトが部活の様子を見にくるのなんて初めてだ。陸部の練習場であるグラウンドが、マコトの弓道部の部室から遠いということもあるが、何より、マコトの部活はかなり忙しい。抜けてくる暇もないだろうに。何か大切な用事だろうか。 「マコトー!」  慌ててグラウンドの隅へ駆け寄った。ふと、自分の汗が気になって、後輩がくれたタオルでガシガシと頭を拭いた。やだな、臭いかな。臭いとか、思われないかな。 「ショウ、ごめんな。途中で呼び出して」  耳の裏のところまで入念に汗を拭いて、マコトの前に立った。うわぁ、袴姿のマコトだ、新鮮……かっこいい………。  精悍な顔立ちのマコトは袴姿がよく似合った。ゴツゴツして男らしい体、とくに手は、大きくて力強くて、男っぽい。弓をキリキリと引き、的まで真っ直ぐに飛ばす力強い手が、しかし、俺を触るときは優しく、そして案外臆病になることも、知っている。 「ショウ?どうした?」 「あ、……いや、平気平気!いまキリいいとこだったんだ」  バカバカ、俺のバカ!マコトについ見惚れて、ソンナコトまで考えてしまうとは。部活中なのに! 「で、どうした?」  頬を熱くしながら先を促せば、マコトは少しだけ恥ずかしそうに視線を斜め下にやった。 「いや、その………別に緊急とかじゃなくて……部屋で話せばよかったんだけどな、」 「なんだよー、勿体ぶんなよ」 「その……、次の土日、空いてるか」 「あぁ、とくに部活も無いし、空いてるけど」 「これ、一緒に行かないか」  さっと示されたのは携帯の画面で、その画面の中には、あるテーマパークのチケットが予約されていた。2枚。 「こっ、ここ、こないだテレビでやってた!」 「おまえ、釘付けだっただろ。行きたいんだろうなーと思って、稼いだ。ごめんな、おまえの予定も聞かなくて。でも………驚かせたかったんだ」  照れ臭そうにポリポリと頬をかくマコト。なるほど、バイトだったから最近部屋に戻ってくるのが遅かったのか。そっか、その金、俺のために稼いでくれてたのか……。  唐突に、キュウと音を立てた絞られた心臓のまま、マコトに抱きつきたくなった。キスしたくなった。愛おしさが込み上げてジタバタと落ち着かなくなった。 「っ〜〜〜〜〜!!お、おまえそれ、今言うなよ!」 「す、すまん!チケットは抽選で、当たったの見たらすぐ教えたくなって……」 「違う!ここじゃ、……ここじゃ、キスもできないっ」 「えっ」 「ありがとう、マコト!」  どうしてもトキメキをいなせなくて、マコトの手をギュッと、両手で握りしめた。マコトありがとう、マコト大好きって気持ちが、溢れてくる。伝われ、マコトに。俺はこんなに嬉しいんだって。好き、大好きだ、マコト。 「…………ショウ、ちょっと」  握った手をもう片方の手で覆われて、そのまま体ごと引き寄せられた。 「えっ」  身長差14センチ、マコトは少しだけ屈んで俺に耳打ちする。 「キスだけ………グラウンドのトイレ裏ならバレないだろ。な、頼む、我慢できない」  部活中なのに、とよぎった建前は、少し熱をはらんだマコトの吐息が耳に当たった瞬間、霧散した。まあ、いっか。あとで監督に怒られればいい。今は、この飢えた心を満たしたい。 「おまえは?」 「俺も、我慢、できない」

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