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キスだけだから…⑵

「っん、ふぁ、は、っ………っぅ」 「はっ、はっ」  グラウンドから少し離れたトイレは、私立の学園らしく綺麗な作りになっている。上から見ると太った瓢箪の様になるトイレは、真ん中のくびれのところが入り口になっていて、左右で男女に分かれている。だから裏も当然壁がへこんだつくりになっていて、左右からは見づらくなっている。  そんな隠れ密会スポットの、トイレの壁に押し付けられて、マコトからのキスを受けて止めていた。 「んぅ、う、っんんぁ、はむ、んん……!」  もう、やばい、息が………!  ドン、ドンと強めに胸を叩くも、ひっついたまま離れないマコトはしつこくべろを突っ込んでくる。  しまいには、抵抗を煩わしく思ったのか、両手の手首を掴まれて壁に押し付けられた。もうやばい、もう死ぬ、もう息できない、死んじゃう、死んじゃうって……! 「んん〜〜〜〜〜!!」  最後の力を振り絞って、右足のスネをガツンと蹴った。 「いっーー!」 「っぷぁ!!っは、はっ、はー、はー、はーっ」  しゃがみこんで悶えるマコトの前で、膝に手をついて息を整えた。あぁもう、しんどい! 「な、なにするんだ、ショウ……」 「おっ、おまえこそ、何、すんだよ!はぁっ、息できねえじゃん!」 「でも蹴ることないだろ……」 「うるせぇ!どんだけやってんだよ!はー、もう、何分くらいたった!?」 「わからないが、……20分くらいか?」 「長えよ!戻んないと部長に怒られるっ……」  部活に戻ろうと体を横に向けたら、手首を掴まれ止められた。 「………もう行くのか?」  そっ……!  そんな、大型犬みたいな目で見つめてくれるなよ……! 「……、っな、なんかさぁ、おまえ、今日おかしくねぇ?」 「なにがだ?」  いてて、と顔をしかめながら立ち上がるマコト。全く、いけしゃあしゃあと。蹴りが甘かったかな。  おかしいというのは、いつもと違うという意味だ。  おかしい。こんなにガツガツするやつじゃない。キスも、それ以上のいろんなことも、いつもこいつは優しかった。優しいというか、気遣いしいというか、まどろっこしいというか。  こんな無理やりな、抵抗してもやめない様な、そんなキスをしてくるような男じゃない。なのに。 「今日、その………すげえ、がっついてんじゃん」  多分赤くなってる頬を隠すように、口元を手で覆った。なんか、無性に恥ずかしい。なんでだろう。キスしてる間は必死だからいいけど、振り返って冷静に考えると、どうも気恥ずかしくなってしまう。  がっついてるわけは、すぐに、マコトの口から聞けた。 「………久々だったから」 「え?」 「久々だろ、キスするの。俺、ずっとバイトだったし、ショウは寝るの早いし。だから、その……し、ショウ不足というか……」  まるで幼い子供が言い訳するみたいに、落ち着かなそうに指を突き合わせてマコトは言った。なんだそれ。かわいい。いや、内容は全然可愛くないんだけど。俺不足って。なにそれ。そんなの。 「……っふ、ふは」  いかにも、求められてる感じ。 「ふは、あははは!なんだそれ!そんな、少女漫画みたいなこと言って!似合わねぇ〜!」 「うっ、うるせぇなぁ!笑うなよ!」  単純にからかわれて顔を赤くするマコトは珍しくて、かわいいなとつい思ってしまう。かわいい。好き。そうやって余裕がないの、俺でいっぱいになってる感じで、すげーかわいい。すげー好き。  そう思ったら、部活とか監督に怒られるとかそういうの、いっぺんにどうでも良くなってしまった。 「マコト」  いじけてるマコトの前に立つ。そのまま、ゆっくり首に手をかけてやる。悔しいけど、こうしないと、立ってるマコトの背には届かないんだよね。  ちゅ、と存外可愛らしい音がして、唇と唇が重なった。わかりやすく固まっているのがわかる。普段俺からはあまりしないからかな。 「いいよ、もうちょっと。あとで監督にも部長にも怒られてやるから。……おまえも、ガク先輩たちから怒られろよ?」 「……おう………」

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