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秘書のオシゴト②

あんなこと… 先日、セクハラめいた社長のハグに堪りかねて、スケジュールチェックを黒原さんに代わってもらった時のことだった。 黒原さんが社長室へ消えた途端、ドアの向こうから何か言い争っているような声が聞こえた。 程なくして現れた黒原さんは、いつもの端正なクールな顔の眉間にシワを寄せて 「西山君…やっぱり君じゃないと無理だ… 社長はえらくご立腹で…今日の会議は全て中止だと我儘言うんだよ。 頼む、社長室に行ってくれないか? 埋め合わせは必ずするから。」 今日の会議は内々だけれど追加予算の申請を社長に直訴できる機会とあって、どの部署も準備万端手ぐすね引いて待ち構えている。 そのプレゼンのために、一部の社員は毎日残業までしていると聞いた。 そんな状況なのに、社長が出席しないとあれば大問題になる。 黒原さんに、泣くように両手を合わせて拝まれて無碍にもできず、渋々社長室へと向かった。 「失礼致します、西山です。入ります。」 ドアを開けると、不貞腐れた社長の顔が目に入った。 「西山君っ!」 ぱぁっと笑顔になり、嬉々として俺の方に飛んで来ると、いつものようにハグしてきた。 少し…触れている時間が長いような気がした。 やっと離れてくれた社長は俺の肩に手を置くと 「…これで今日も一日頑張れる。 西山君、君じゃないとダメなんだよ。」 「社長、俺が『西に黄色』だからですか?」 「それだけじゃないよ。 とにかく、明日からも君が確認に来てくれ。いいね? じゃあ改めて今日のスケジュールをよろしく。」 「…承知致しました…」 黒原さんの元に戻ってきた俺は、ため息をつきながら言った。 「社長復活しました。 『明日からも』と仰せつかりました。」 「そうか、そうか、ありがとう…西山君、辞めないでね。」

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