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秘書のオシゴト④
そういうお育ちだからなのか、世間一般から少しはみ出しているというか破天荒というのか、そうかといって常識的なことは弁えている不思議な人だ。
ハグされるし振り回されることもあるけど憎めない。俺は人間的にこの人のことは嫌いではない。逆に憧れていた。
流石英才教育を受けてきただけあって、頭もいいしキレる。
トップでいながらも腰が低くて他人に優しいし、業者やお掃除のおばちゃん達に至るまで、社長のファンは多い。
ただ…俺に対する社長の行為に、戸惑って困っているだけだ。
黒原さんは、代々社長の家に仕えている所謂家老的な存在の家系の人。
社長と同い年の彼は、小さい頃から『幼馴染兼お目付役』という大役を任され、文字通りの御目付役として育ってきたそうだ。
学校も習い事も全て一緒。
何分相手は“殿様”なんだけど、彼を諫めたり叱ったりできるのは黒原さんただ一人。
親の言うことなんて聞きやしなかったんだって。
今まで何かあっても、打つかり合いながらも最終的に黒原さんの意見を聞き入れ、納得して問題を解決してきたんだそうだ。
その黒原さんが今回の件では根を上げている。
そうなったら誰も社長を止められない。
俺がはっきり拒絶すればいいんだろうけど…何だかそれもできなくて…初めてハグされた時、思いっ切り硬直して怯えた俺を見て、社長が本当に悲しく切ない泣きそうな顔をしたから。
まるであの時の雨の中に捨てられた子犬のような目だったんだ。
小学生の頃、動物が嫌いな両親に反対されて助けることができなかったあの子犬のような目。
だから、という訳じゃないけど、絆されてしまっている…と言ったほうが正しいのかもしれない。
大きくため息をついて、ふと顔を上げると黒原さんが俺をじっと見ていた。
「西山君、力になれなくてごめんね。
俺じゃあ、もう社長を止められないかも…」
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