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秘書のオシゴト⑤
俺は力なく答える。
「そうみたいですね。
黒原さんでもダメならダメなんですよね…俺、ここの仕事は嫌なんじゃないんですよ。寧ろ好きなんです。自分の性格に向いてると思います。
ただ…社長が朝イチで…他にも何かと俺をハグしてくることに対して戸惑っているというか何というか…俺は男だし、別に世間でいうセクハラとまでは思わないけど、『西山君をチャージさせて』とか言って、ラッキーアイテムとしてモノ扱いされてて、名前だけで入社できた気がして…俺の仕事ぶりってどう判断されているのか…」
流石に今朝の“髪の毛にキス”までは言えなかった。
うんうん、と黒原さんは気の毒そうに頷いた。
「モノ扱いとかはないよ、絶対に。社長は…君のことを気に入っているのは間違いないんだ。これだけは言っておくね。
君は素直で気配り上手で、仕事も真面目に取り組んでくれてる。
俺も鍛 えがある。あ、気に入ってるのは社長だけじゃないんだよ。勿論俺も。
何とかいい方向に持っていくようにするから、お願い、辞めないで!」
涙目の黒原さんに両手をぎゅっと握り締められて懇願された。
社長に勝るとも劣らず、黒原さんだってかなりの美形だ。そんなイケメンに縋るような潤んだ目で見つめられて、手も握られて、俺は相手が男性なのにドキドキが止まらなくなってしまった。
社長といい黒原さんといい、ここの人達はボディタッチが好きなんだろうか。
ひょっとして…小さい頃からの癖?それなら仕方がないか…海外留学の経験もあると言っていたし、ハグなんて挨拶だもんね。
俺はどぎまぎしながら
「わっ、分かりましたっ!辞めませんっ!
頑張って耐えますから、何とかして下さいね!」
途端に黒原さんは、ぱぁーっと花が咲いたような笑顔になり
「ありがとうっ!俺頑張るからっ!」
と抱きついてきた。
あ…元凶は…黒原さん、あなたですか???
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