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秘書のオシゴト⑧

俺は…すぐにでもの元で働きたい、と思っていた。 名前を…“檸檬”というかつて苛めの対象だった名前を『爽やかで君にピッタリだ』と言ってくれたあの人の側で。 その言葉には、揶揄いもおべんちゃらも何も感じなかった。ただ純粋に、檸檬という名前の俺を認めてもらえて嬉しかったんだ。 こうしちゃいられない。 入社までにできることをしよう。 自分のスキルを上げておかなければ。 何処に配属されるか分からないけれど『名前を褒めていただいた西山檸檬は、しっかり仕事をしています!』と胸を張って言えるように。 まずは内定のお礼文を気合を入れて格別丁寧にしたためて郵送した。 それから、春からの新生活への期待を込めて、ちょっと苦手だった英語や、社会情勢に流行物(はやりもの)なんかを勉強しつつ、『美味しいお茶の入れ方講座』なるカルチャースクールにも足を運んだ。 「檸檬、何か雰囲気変わったよね。いい事あった?」 悪友達に揶揄われながらも、俺は胸を張って答える。 「うん!すっげえ尊敬できて憧れる人に出会えたんだ! だから、その人に少しでも認めてもらえるように頑張ってるんだ。」 「へぇ。まぁ自分のためになることなら頑張れよ。」 「ただのおちゃらけた奴だと思ってたのに…お前、そんなキャラだったんだな、意外〜。」 そうやって自分を磨きに磨いて迎えた入社日…俺は憧れの社長の秘書見習いとして配属されたのだった。 辞令を受けた俺の喜びは半端なく、湧き上がる笑みを堪えるのに必死だった。 先輩の黒原さんも優しくて、褒めて伸ばしてくれるタイプの人。 「西山君のいれてくれるお茶って美味しいんだよね。来客時には君にお願いするよ。」 なんて言われて舞い上がっている。

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