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社長の真意⑥
約束通り途中で手土産を買い、満に
「お前から渡してやれ。」
と押し付けた。
西山君は意外と甘党で、今ハマっているのはシュークリームだそうだ。これなら喜んで受け取ってれるはずだ。
満は小箱を大事そうに持つと、小さな声で「アリガトウ」と呟いた。
その頃には赤かった目も鼻も元通りになってはいたが、瞳はまだ少しばかり潤んでいた。
会議までに少し余裕があるから、西山君に紅茶でもいれてもらうとするか。
満の大人しさが気にはなったが、そのまま車を飛ばして帰社した。
「西山君、留守番ありがとう。悪いけど、紅茶3人分いれてもらえるかな?社長と俺と君の分。」
「お帰りなさい!はい、承知致しました。」
満は…無言で小箱を差し出した。
おい、笑顔だけど顔が引きつってるぞ。何とか言えよ、無言は怖い。
案の定、いつもと違う満の態度に、西山君は瞬間首を傾げ妙な顔をしたが、箱の中身を察したのか
「ありがとうございます。」
と一礼して受け取り、パントリーに消えた。
俺は小声で
「おい、満、その顔怖い。おまけに無言は止めろ。それにいつもと態度が違い過ぎる。」
「でも…どうしていいか分からない…」
「何だよ、そのヘタレぶりは。普通でいいんだって、普通で!」
「自分の気持ちをお前に伝えて認識したら、意識しちゃってダメだ…」
「とにかく、『無事に契約を終えた、ありがとう』くらい、言えよ!」
ぼそぼそと密談していると、西山君が綺麗にセッティングを済ませて運んできてくれた。
「お土産、ありがとうございました。
ここのシュークリーム評判で、一度食べてみたかったんです。」
「これは社長からだよ。」
「えっ、社長、ありがとうございます。」
「いや…いつも頑張ってくれてるから…」
「さ、会議の前に腹ごしらえして戦いに備えるとするか。
社長、私達も便乗させていただきます。
さ、西山君も座って。」
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