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社長の真意⑦

「ありがとうございます。遠慮なくいただきます。」 西山君は聡い。いつもと違う満の様子に気付いてるが、余計なことは口にしない。 満がやっと声を出した。 「紅茶いい香りだ。美味い。」 「恐縮です。」 「では、いただこうか。」「いただきます。」 ひと口食べた西山君の顔が綻んだ。 よかった、お気に召したか。 ふと満を見ると、何ともだらしない顔で西山君を見つめている。 テーブルの下で、満の足を蹴ってやった。 「うぐっ」 「社長、どうされましたか?」 しれっと尋ねると 「…何でもない…美味いな、これ。」 西山君は小動物みたいにもぐもぐと口を動かしながら、にこにこと頷いている。 社長はどさくさに紛れて彼にお礼を言う。 「契約も無事に結んできた。ありがとう。」 「お役に立てたならよかったです。」 「うん。」 いつものパターンだと帰社するなりのハグなんだけど今日はそれがなくて、いつハグされるかとちょっと身構えていた感の西山君は、仕掛けてこない社長を見て“あれ?”という顔をしていた。 社長はハグしたいのを必死で我慢していたらしい。時折手が西山君に伸びそうになるのを堪えていた。 「そろそろ会議の時間か…黒原、資料を頼む。」 「はい、承知致しました。」 社長に見えないように、俺が西山君にぱちんとウインクをすると『黒原さんが諫めて下さったんですか!?』とでも言いたげな視線が飛んできた。 黙って親指でグーサインを出すと、何故か寂しげな表情を見せる西山君に、今度は俺が違和感を感じながらも、資料を社長に手渡した。 「じゃあ、行ってくる。」 「いってらっしゃいませ。」 「あ…いってらっしゃいませ。」 何か言い淀む西山君の口からは、問い掛けが発せられることはなかった…。 ん?まさかハグ…して欲しかったのか? そんな訳ないよな? あれだけ困ってたんだもん。 でも、彼から感じるこの違和感は何なんだろう。 府に落ちない。

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