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秘書の真意②
「何だかね、ここ最近君の顔が憂えてて、気になってるんだよ。
日を追うごとに悲しみが増しているようで。
俺で良ければ相談に乗るから、教えてくれないか?
一人で悩むよりも、何かいい知恵が出るかもしれない。というより、おこがましいけど解決してあげたいんだ。
俺の大切な部下だから。」
西山君は俺の顔をじっと見つめている。
その瞳は戸惑いに揺れていた。
口元は何か言いたげに開きかけるが、また真一文字に結ばれてしまう。
時間はたっぷりある。彼の心の内を聞き出すまで、とことん付き合うとするか。
それを繰り返すこと…どれくらい沈黙の時間が過ぎただろうか。
すっかりコーヒーも冷めてしまった頃、西山君が口を開いた。
「…あの…自分でも頭の整理がつかないんですが…」
うんうんと頷いて身を乗り出す。
『ちゃんと君の話を聞くよ』というサインだ。
「あの…社長とのことなんですけど……黒原さんにお伝えして解決していただいておいて、今更、って感じなんですけど…」
「ひょっとして別のセクハラ!?」
「違いますっ!そうじゃありませんっ!」
西山君は目を大きく見開いて、両手をぶんぶん振って否定した。
「…ごめん、話を折った。続けて?」
「…はい。
あの日から社長は、俺に一切触れてこようとはしません。
寧ろ見えない距離を取られてる、という感じで。
態度はいつもと変わらず、優しく穏やかで丁寧に接して下さっています…」
あぁ…あの満が相当耐えてるんだな…可哀想に…
彼の気持ちを思うと切なくなってきた。
『でも西山君にとっては、それならいいんじゃないの!?』
なーんてツッコミそうになったが、ぐっと堪えてその後の言葉を待つ。
「ただ…社長の目が……」
「目?」
「はい。笑顔なんですけど…目が、捨てられた子犬みたいに辛そうで悲しげで、逆に愛おしくなって俺が抱きつきそうになっちゃってて… 俺が社長をハグしたくって困ってるんです。」
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