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秘書の真意④
「俊樹…何やってんだ?」
突然満の低い声が聞こえた。
振り向くと、怒りのオーラを纏う満が立っていた。
何だ?何怒ってんの?
「いえ、別に。お声掛けて下さればよかったのに。何か用意する物ありましたか?」
「俺は『檸檬を泣かせて何やってんだ?』って聞いてるんだ。」
はぁ…それか…いつからそこにいたんだろう。
全く気付かなかった。
檸檬?名前を呼び捨てにしてるじゃないか。
西山君は自分が泣いていることに気付いたのか、慌ててゴシゴシと目を拭った。
「ですから、別に」
「もう一度聞く。『檸檬に何したんだ?』」
ぐいっと満に胸倉を掴まれた。
あー…マジ切れしてやがる。これ、殴られるパターンか?
「社長っ!違いますっ!誤解です!離して下さいっ!」
西山君が俺と満の間に割って入ってきて、そのまま満を封じ込めるように抱きついた。
「れっ、檸檬?」
「黒原さんは私を気遣って心配してくれてて…違うんです!怒らないで下さいっ!」
西山君に抱きつかれた満は、段々と顔が崩れてきた。
そして、ここぞとばかりに西山君を抱きしめた。
目の前で繰り広げられる熱い抱擁。
アホらしい。俺がそっくりそのまま言葉を返したい。
『君達、何やってんの?』って。
音を立てないようにそっと部屋を出ていく。
鍵も掛けてしまえば誰も入れない二人だけの空間になる。
受付に電話をして指示する。
『社長は事務仕事に専念したいそうなので、来客も電話も絶対に取り継がないように』と。
道筋はつけてやったんだから、あとは当人同士でどうとでもしてくれ。
策士黒原俊樹、よくやった。
我ながらいい仕事をしたんじゃないか?
あとで満からたっぷりお礼をいただくとしよう。
…消臭剤と皮のソファーの汚れ落としでも買ってくるとするか…俺はほくそ笑みながら会社を後にした。
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