21 / 371

秘書の真意④

「俊樹…何やってんだ?」 突然満の低い声が聞こえた。 振り向くと、怒りのオーラを纏う満が立っていた。 何だ?何怒ってんの? 「いえ、別に。お声掛けて下さればよかったのに。何か用意する物ありましたか?」 「俺は『檸檬を泣かせて何やってんだ?』って聞いてるんだ。」 はぁ…それか…いつからそこにいたんだろう。 全く気付かなかった。 檸檬?名前を呼び捨てにしてるじゃないか。 西山君は自分が泣いていることに気付いたのか、慌ててゴシゴシと目を拭った。 「ですから、別に」 「もう一度聞く。『檸檬に何したんだ?』」 ぐいっと満に胸倉を掴まれた。 あー…マジ切れしてやがる。これ、殴られるパターンか? 「社長っ!違いますっ!誤解です!離して下さいっ!」 西山君が俺と満の間に割って入ってきて、そのまま満を封じ込めるように抱きついた。 「れっ、檸檬?」 「黒原さんは私を気遣って心配してくれてて…違うんです!怒らないで下さいっ!」 西山君に抱きつかれた満は、段々と顔が崩れてきた。 そして、ここぞとばかりに西山君を抱きしめた。 目の前で繰り広げられる熱い抱擁。 アホらしい。俺がそっくりそのまま言葉を返したい。 『君達、何やってんの?』って。 音を立てないようにそっと部屋を出ていく。 鍵も掛けてしまえば誰も入れない二人だけの空間になる。 受付に電話をして指示する。 『社長は事務仕事に専念したいそうなので、来客も電話も絶対に取り継がないように』と。 道筋はつけてやったんだから、あとは当人同士でどうとでもしてくれ。 策士黒原俊樹、よくやった。 我ながらいい仕事をしたんじゃないか? あとで満からたっぷりお礼をいただくとしよう。 …消臭剤と皮のソファーの汚れ落としでも買ってくるとするか…俺はほくそ笑みながら会社を後にした。

ともだちにシェアしよう!