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秘書の真意⑧
side:黒原俊樹
もうそろそろ落ち着いた頃だろう。
帰ってもいいよな?
俺は戦利品を両手に抱え、遠慮がちにノックした。
「…どうぞ。」
「ただいま戻りまし…あれ?満だけ?西山君は?」
テーブルに荷物を置きながら、ニヤニヤして満に話し掛けるが、様子が何だか変だ。
「………出て行った。」
「え?ここでヤっちゃったの?やっぱり?
いい雰囲気だったもんねぇ…ほら、これ。レザークリーナー買ってきたからどれだけ汚しても大丈夫だよ。あとウエットティッシュと消臭剤。
俺ってデキた秘書だよなぁ…って、満、どうした?」
「…ヤってない。」
「え?」
「ヤってないんだ。」
「まさか、怒って帰っちゃったのか?」
「違う。」
「じゃあ、どうして。」
「確かにいい雰囲気で俺もそのまま最後まで、って思ってたんだよ。檸檬だって俺のことを受け入れてくれてたみたいだったし。それにお前も上手い具合に出て行ってくれたから。
でも『不釣り合いだ』とか『男だから』とか、挙げ句の果てに『どんな処分でも受けますから申し訳ありませんでした』って、逃げちゃったんだ。
キスしかしてない。」
がっくりと項垂れる満に
「追っ掛けたのか?ちゃんと『男だろうが何だろうが愛してるんだ』って伝えたのか?」
力なく横に首を振る満。
「電話も通じない。あんなに拒絶されたら、どうしていいのか分からないんだ。」
俺はカチンと頭にきた。
「ばっかやろう!何で速攻追い掛けない?
まさか…“家のこと”気にしてんのか?
そんなもん、どうにでもなるだろ?お前が当主なんだから!
あの子、今頃傷付いて泣いてるぞ!
一生手元に置いて本当に愛し続ける覚悟があるんなら、手放すな!
早く追い掛けろ!捕まえたら抱きしめて絶対に離すな!」
「追い掛けて…いいのか?」
アホだ、コイツ。
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