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秘書の真意⑨

確かに、振られたことがないからそんな時の対処法が分からない、って言ってたけど…ここまでアホでヘタレだとは思わなかった。 「なーに言ってんだよ、このバカ殿がっ! いいから早く行けよ。 住所は……ここ。多分家に帰ってるはずだ。絶対に捕まえろ。」 「俊樹、ありがとう。」 そう言って、慌てて社長室に戻った満は、車のキーを掴んで飛び出して行った。 その背中に『good luck』と言ってやり見送った。 残された俺は、大きなため息をついた。 大袈裟だが息をするのも忘れてた。 何だよ。お互い惚れ合ってたんじゃないか。 面倒臭い奴らだな。 初恋同士か、ってーの。 西山君、ハグに困ってたのは『好き』の裏返しだったんだね。 今思うと、満の身の回りのことをする時の君は嬉しそうだったもんな。 何で俺気付かなかったんだろう。 仕事柄、アンテナは張り巡らせてあるはずなのに。 でもまあ、いいか。 満の恋も成就しそうだし、西山君のセクハラ問題も解決したし。いや、逆に本当のセクハラが始まるかもしれない。ヤバいヤバい。 あとは…本家にどう伝えるか、だな。 満が同性と結婚するって言えば、大騒動になるのは必須。 跡取りはどうするのかとか、遺産目当てじゃないのかとか、色々と外野が煩いだろう。 絶対にを味方につけなければ。そうすれば怖いものなし…どんなことでも、鶴の一声で誰も反論できないから。 当主より力を持つと言われる影の権力者…本家の奥向き一切合切を取り仕切る総取締役の…聡子(さとこ)さんを。 ラッキーなことに満も俺も、幼い時からかわいがられている。真剣に話せば聞いてくれるはず。 将来法律が変わった時にスムーズに事が運ぶように、やはり本家に養子として迎えてもらうのが1番かな。 果たして受け入れてくれるんだろうか。 うーーっ、頭痛い… とにかく作戦を練るべく、俺はデスクに向かった。

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