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押しの一手①

side:金山(かねやま)満 俊樹にどやしつけられた。 反論できない。情けないが涙まで出てくる。 バカ殿だと罵られても仕方がない。 俺は挫折を知らない欠陥人間だ。 メモされた住所をナビに打ち込むが、慌てる余りに何度もやり直しをして、やっと反応してくれた。 タイヤを軋ませながら、指示通りに車を飛ばす。 頼む、家に戻っていてくれ。 叫んでも檸檬は留まってくれなかった。 振り返りもしなかった。 あの潤んだ瞳が目に焼き付き、悲しげな声音がまだ耳に残っている。 俺は部屋を出て行く檸檬をただ見送ることしかできなかった。 こんな時、一体どうすればよかったのか。 どうしていいか分からず、ソファーに沈み込んだ。 今まで追い掛けることなどなかった。 気に入った奴らとはそれなりに付き合いもしたけれど、みんな俺のルックスや財産に目の絡んだ奴らばかりだった。 『振られる』というワードは、俺の頭に一切なかった。 檸檬…俺の告白に応じてくれたのではなかったのか? 俺のキスに応えて、その身を委ねてくれたのではなかったのか? 聞きたいことは山程ある。 早く捕まえて、もう一度、いや何度でも俺の思いを伝えなければ。 ただの遊びなんかじゃない。本気なんだ。 檸檬以外はいらない。 同性じゃダメなのか? お前の家族を説得する自信は満々だぞ。 気は急くのにことごとく信号で引っ掛かる。 新たなイジメか? ハンドルをトントン叩きながらやり過ごす。 最初の到着予定時刻を15分も過ぎて、ナビのアナウンスが終了した。 この辺か。落ち着いた住宅街で治安も良さそうだ。どの家も色とりどりの草花で飾られている。 目当ての建物はすぐに分かった。 車は…路上でもいいか…ぐるりと見渡すと、少し離れた所のコインパーキングが目についた。

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