27 / 371
押しの一手①
side:金山 満
俊樹にどやしつけられた。
反論できない。情けないが涙まで出てくる。
バカ殿だと罵られても仕方がない。
俺は挫折を知らない欠陥人間だ。
メモされた住所をナビに打ち込むが、慌てる余りに何度もやり直しをして、やっと反応してくれた。
タイヤを軋ませながら、指示通りに車を飛ばす。
頼む、家に戻っていてくれ。
叫んでも檸檬は留まってくれなかった。
振り返りもしなかった。
あの潤んだ瞳が目に焼き付き、悲しげな声音がまだ耳に残っている。
俺は部屋を出て行く檸檬をただ見送ることしかできなかった。
こんな時、一体どうすればよかったのか。
どうしていいか分からず、ソファーに沈み込んだ。
今まで追い掛けることなどなかった。
気に入った奴らとはそれなりに付き合いもしたけれど、みんな俺のルックスや財産に目の絡んだ奴らばかりだった。
『振られる』というワードは、俺の頭に一切なかった。
檸檬…俺の告白に応じてくれたのではなかったのか?
俺のキスに応えて、その身を委ねてくれたのではなかったのか?
聞きたいことは山程ある。
早く捕まえて、もう一度、いや何度でも俺の思いを伝えなければ。
ただの遊びなんかじゃない。本気なんだ。
檸檬以外はいらない。
同性じゃダメなのか?
お前の家族を説得する自信は満々だぞ。
気は急くのにことごとく信号で引っ掛かる。
新たなイジメか?
ハンドルをトントン叩きながらやり過ごす。
最初の到着予定時刻を15分も過ぎて、ナビのアナウンスが終了した。
この辺か。落ち着いた住宅街で治安も良さそうだ。どの家も色とりどりの草花で飾られている。
目当ての建物はすぐに分かった。
車は…路上でもいいか…ぐるりと見渡すと、少し離れた所のコインパーキングが目についた。
ともだちにシェアしよう!