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押しの一手②

1台空いたスペースに駐車させ、檸檬のアパートまで段々と駆け足になる。 はやる気持ちを抑えながらエレベーターに乗り込んだ。 弾む息を整えて停止すると同時に飛び出し、ドアの前に立った。 檸檬、いてくれ…祈りを込めてチャイムを鳴らす。 ピンポーン 反応がない。 ピンポーン ピンポーン ピンポーン まだ帰宅していないのか? しつこく3度目を鳴らそうとした時 「……はい…どちら様?」 檸檬だ! 「檸檬、俺だ!頼む、開けてくれ!」 「社長っ!?どうしてここにっ!?」 「お願いだ。開けて顔を見せてくれ。頼む。」 「……でも…」 「頼むからっ!開けてくれるまで帰らない!ずっと土下座する! お願いだから開けてくれ!」 必死の訴えに、暫くしてかちゃりと鍵を開ける音がして、ドアが少し開いた。 「檸檬…」 「…申し訳ありません。今、退職届を書いているところで…明日お届けに上がります。」 「退職届?何のために?」 「…一身上の都合です。ご迷惑をお掛けして申し訳ありませんでした。」 「檸檬、何言ってんの?とにかく中に入れてくれ。」 「…でも…」 俺はドアの隙間に足を挟み、無理やり身体を捻じ込ませた。 そうして檸檬から視線を逸らさずにお願いする。 「頼むから俺の話を聞いてくれないか?」 はあっ…とため息をついた檸檬は、断るのを諦めたのか 「…こんな格好で申し訳ありません。 散らかってますけど、どうぞ。」 とスリッパを出してくれた。 Tシャツにジャージという完全に部屋着モード。 いつものスーツ姿とのギャップがあり過ぎて萌える。 チラ見したキッチンはピカピカだった。 2LDKといった間取りの室内は、小綺麗に片付いていて、檸檬の几帳面さを物語っていた。 一人暮らしにしては広すぎないか?もしかして…誰かと住んでいたのか? テーブルには、くしゃくしゃに丸められた紙屑と書きかけの…『退職届』の文字が目立つ便箋が…

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