172 / 371

内緒(2)

これが肝心、有給休暇の申請。 「黒原さん、お願いがあります。」 「どうしたの?改まって。」 「あの…社長のお誕生日に、私のお休みをお願い致しますっ。」 「ははーん…料理でおもてなしか?やるねぇ、西山君。何作るの? いいよ、いいよ。いつも頑張ってくれてるから。 当日とその翌日も、2日間で申請書書いといてね。」 「いえ、料理の準備があるから当日だけでいいんです!」 「いいのいいの。2日間書いといて。(小声で:翌日も休む羽目になるんだからさ) 直前に出さないとバレたらマズいだろ?どうせサプライズなんでしょ? バレないように俺が預かっておくよ。」 黒原さんは、にひひと悪代官のような笑い方をした。 途中何かごにょごにょと言っていたが聞き取れなかった。 上司のOKが出たから、そそくさとデスクに戻り 『私用のため』と堂々と記入して、取り敢えず言われた通りに2日間の申請をした。 学習能力のない俺は、2日目にまた不貞腐れることになるのも知らずに。 今日は社長が接待で遅くなるのが分かってるし、別々に帰宅する。晩ご飯の用意は自分だけでいいから残り物で済ませるつもり。 黒原さんも用事があるみたいで「ダッシュで帰宅するよ」と、今日は朝からやけにソワソワしてる。もしかして…彼女とデート!? 終業のチャイムを待ち兼ねるように2人で席を立つと、顔を見合わせて笑った。 「西山君、お疲れ様。鬼の居ぬ間に何とやら。 さぁ、帰るよ!」 「はい!お疲れ様でした。」 玄関まで肩を並べ、また明日、と別れた。 さぁ、手芸店に直行だ! 「こんにちはー。」 「いらっしゃいませー!あら、檸檬君お久し振りっ! 新婚生活はどう?楽しんでる?」 チーフの大畑さんにハグ付きで迎えられた。 「あははっ。それなりに、ですけど。 ご無沙汰してます。 その節はお世話になりありがとうございました。」

ともだちにシェアしよう!