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内緒(6)
それから暫く打ち合わせをして、作業場も見せてもらい、職人さんにも挨拶をさせてもらった。
「時々自分で作りたいと申し出る方がいるんですよ、だから心配しないでいらっしゃい」と職人さんは慣れた風に受け入れてくれてホッとした。
明日からお世話になることにして、新藤さんと多恵子さんに、よくよくお礼を言ってからお暇した。
帰り道、スキップでもしそうに高揚している。
何て素敵な偶然なんだろう。
満さんに言いたくて堪らないけど、我慢だ我慢。
言っちゃったらサプライズにならないじゃないか。
はっ。明日からどうやってひとりで帰ろうか。
作りたいものがあって(これは事実だ)少し寄り道して帰ると言っておこうか。何を作っているのかと突っ込まれるかも。それはマズい。
それとも黒原さんに協力してもらって、出来上がるまで満さんの残業を増やしてもらおうか。
でも残業はかわいそうだな…黒原さんに相談してみよう。
それから冷蔵庫の余り物で夕食を済ませた。
いつもなら満さんと向かい合って、その日のことやたわいないことを話しながら、まったりと過ごしているのに、今夜はテレビが相手だ。
一人暮らしの時はそれが当たり前で、何とも思わなかったのに、愛する人と過ごす穏やかな時間と空間に慣れてしまうと、寂しくて仕方がない。
満さん、何時に帰ってくるんだろう。
寂しさを誤魔化すようにさっさとキッチンを片付けた後、バスルームに駆け込んだ。
いつもより丁寧に全身くまなく磨き上げ、湯船に浸かった。
ほおっ、とひと息つくと、薬指の指輪が目に留まった。満さんの所有の証。
それにしても、あのお店のオーナーさんが、多恵子さんのお父さんだったなんて。
満さんに言いたいのに言えないもどかしさ。
早く誕生日になあれ。
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