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押しの一手⑥
檸檬だけでなく、俺も緊張している。
握った手は、お互いの汗でじっとりと湿り気を帯びてきた。
それにも構わず、握る手に少し力を込めて家を目指した。
「…着いたぞ。」
檸檬は黙って頷いた。
相変わらず耳まで赤く染めている。
車を降りるように促して、手を繋いだまま駐車場に面した裏口から入り、エレベーターに乗り込んだ。
俯いたままの檸檬の様子をチラ見する…震えているのか?
半ば強引に手を引き部屋に辿り着くと、檸檬を押し込んだ。
後ろ手で鍵を閉めながら片手で檸檬を抱き寄せキスをする。すかさず空いた手でがっちりとホールドするのも忘れない。
「…っ…ん…」
今、すぐにお前を抱くよ。
玄関でがっついてすまない。
早急過ぎたか?いや、余裕がないんだ。
唇にむしゃぶりついたまま、言い訳を考えてる。
と、檸檬が首を左右に捻って俺の背中をバシバシと叩き始めた。
?????
「檸檬、どうした?」
「…はっ、はあっ…はあっ…苦しかった…」
「あぁ…息ができなかったのか…悪い。」
少し涙目の檸檬の頭を撫でてやり、靴を脱がせて寝室へ一直線に連れて行った。
「ちょっと待っててくれ。」
触れるだけのキスをしてベッドに座らせてから、一旦寝室を出る。
ネクタイを外し、ソファーの背もたれに上着やスラックスを引っ掛け、バスルームに向かった。
ザッとシャワーを浴びると、拭き取る時間ももどかしく腰にタオルを巻いた状態で戻りかけ…洗面所のハンドクリームを鷲掴みにして、檸檬の待つ寝室へ駆け込んだ。
檸檬は…さっきと同じ体勢で座って待っていた。
「檸檬…」
名前を呼ぶと、ぴくりと跳ねた。
ゆっくりと側に近寄り、頬を撫でてやる。
目を閉じた檸檬が大きく息を吐いた。
それが合図のように手を下に滑らせ、Tシャツの裾を持ち万歳させた。
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