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溺れていく⑥
それから、どんな風に愛されたのか、どんな言葉を掛けられたのか、自分が何を口走ったのか、まるで記憶がない。
何だか、えらく甘えてあんあん叫んでいたような気がする。
気付いた時には全身、特に下半身が酷い筋肉痛で動けなくて、お尻の間に何かが突っ込まれているような感覚が残っていた。
喉もカラカラで、風邪を引いた時のように痛い。
そんな俺を真横で蕩けるような目をして見つめる社長の姿に『あぁ、とうとう抱かれてしまったんだ』と、訳もなく涙が零れ落ちた。
「檸檬…後悔しているのか?」
親指でそっと頬の涙を拭いながら社長が問い掛ける。
後悔しているのはあなたの方では?
聞きたくても上手く言葉が繋がらない。
「俺は後悔なんてしていない。
一生檸檬を守り、共に歩んでいく。
もう決めたんだ。」
それを聞いた瞬間、俺は怠い身体を無理矢理起こして、社長の逞しい胸に縋り付いた。
俺だって、俺だって後悔なんてしてない。
例え、それが社長の一時の気まぐれだとしても、誰が何と言おうと、俺は、俺は、社長のことを愛してるんですっ!
後悔なんてするはずもない。
社長の胸に、無言で額をぐりぐりと擦り付ける。
暫くそうやってマーキングのような真似をしていたが……次第に冷静になるにつけ、涙も、ひょっとしたら鼻水も付いたかもしれない、なんて思うと…自分のしたことが恥ずかしくなって、動きを止めた。
「檸檬、マーキングはそれでお終いか?」
揶揄うような声音に顔を上げると、満面の笑みを浮かべた社長にキスされた。
そのまましっかりと抱きこまれ、密着する肌が発火しそうに熱くなる。
思いを遂げた今、与えられるたっぷりの愛情を感じながら、俺はゆっくりと目を閉じた。
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