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溺れていく⑦
再び目が覚めた時には、社長の姿はなかった。
一瞬、夢だったのかもと思ったが、俺の部屋ではないのは明らかだった。
夢じゃない…俺、社長に抱かれたんだ…
社長のフレグランスが布団に残っていて、思わず布団を抱きしめてくんくんと匂いを嗅いだ。
それ以上に、部屋中にいい匂いが漂っていて、お腹がはしたなくもグウと鳴った。
この匂いで目覚めたと言っても過言ではない。
そうだ。お昼ご飯食べてないや。
美味しそうな匂い。これ何だろう。お腹空いた…
かちゃり
そっと部屋に入ってきた社長は、俺が目覚めたのを見つけると飛んできて、布団ごと抱きしめてきた。
「れもーん、ご飯できてる。一緒に食べよう!」
大型犬に纏わり付かれているようだ。
「凄くいい匂いで目が覚めちゃいました。
恥ずかしいけどぐぅぐぅお腹も鳴ってます。
社長、ご自分で?」
「美味いもん食べさせてやろうと思って、腕を振るったんだ。ほら!おいで。」
「うわあっ」
布団を引っ剥がされて、真っ裸の俺は慌てて股間を両手で隠した。
社長は笑いながら、持ってきたバスローブを俺に羽織らせると、横抱きにしてダイニングに向かった。
「うわっ、わっ。歩きますからっ!下ろして下さいっ!」
「ダメだ。まだ痛むんだろ?言うこと聞け。」
文句を言う暇もなくそっと椅子に座らされ、テーブルを見て驚いた。
「凄い…」
丼から、はみ出さんばかりに盛られた刺身…海鮮丼だ!
あおさのりのたっぷり入った味噌汁が添えられている。
ジュウジュウという音と、香ばしい匂いと共に運ばれてきたのはステーキ!
俺の好物ばっかり!贅沢だ…贅沢過ぎる。
「ほら、好きなだけ食べるといい。
目一杯動いたからお腹も空いたよな。」
最後のは…セクハラだ…
じと…と非難の視線を送ると、社長は気付かないフリをして箸を取った。
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