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聡子さん③

社長の車を黒原さんが運転している。 後部座席には社長が。何処で誰が見ているかも分からないから、俺は遠慮して勿論助手席だ。 俺、いつもの安いリクルートスーツなんだけど。こんなことならスーツも新調しておけばよかった。 靴は、自分投資と銘打って、ボーナスで奮発して買ったクロケット&ジョーンズ。靴だけは立派だ。 カットは1週間前に行ってたし、一応毎日身綺麗にはしてるんだけど。出る前に取り敢えず鏡でボディチェックはしたけれど。 どうしよう。 ご当主様の結婚相手として見定められるんだ。 合格しなかったらどうしよう。 ってか、オトコという時点でアウトかも。 西山れもーん、アウトぉー ツッコミを入れるうちに、車は滑るように首都高を走る。 本家って何処にあるんだろう。 心なしか黒原さんも緊張してるみたいだ。 今日は運転に集中しているのか、口数が少ない。 社長は急に飛び込んできた仕事で、取引先とリモート中だ。 1時間くらい走っただろうか、ようやく一般道に降り山のほうに向かって行く。 ここら辺って…パワースポットって言われる地域じゃないのか!? 目の前に大きなお屋敷が見えてきた。 「…着いたよー。」 黒原さんの声に背筋がぴっと伸びる。 伏魔殿?魔王の城? いやいや、お局様が待ち受ける恐怖の館かも… 「檸檬、普段の通りでいいから。」 後ろから声を掛けられて振り向くと、イケメンオーラを増した社長に微笑まれた。 こくこくと頷くけど、顔は既に強張っている。 玄関には4人の女性達が並んでいるのが、遠くからでも分かる。 「満様、お帰りなさいませ。」 「「「お帰りなさいませ。」」」 眼光鋭い真ん中の年配の女性…きっとこのひとが『聡子さん』だっ! 「ただいま、聡子さん、皆さん。ご無沙汰しちゃってごめんね。 こちらが西山檸檬。後でちゃんと紹介するね。」 「にっ、西山檸檬と申しますっ。 よろしくお願い致しますっ。」 俺の上から下まで、レーザービームみたいに8つの視線が走る。

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