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聡子さん⑤
背筋がぴーんと伸びた。
「はいっ!」
「早速ですが、明日からこちらで花嫁修行をしていただきます。
この金山家に、満様に相応しい嫁になっていただかねば。
その間、仕事はお休みです。
満様、黒原、よろしいですね?」
「えっ、聡子さん、そんな急に言われても」
「いや、西山君の仕事が」
「何か?」
「いっ、いや、その…仕事の段取りとか、檸檬の荷物とか、一旦家に帰っ」
「仕事は黒原がいるから支障はありませんよね?
檸檬さんの着替えや身の回りの物は、全て新しく揃えさせていただいております。
檸檬さん、よろしいですね?」
「は、はいっ!よろしくお願い致しますっ。」
と返事はしたものの、いきなりの展開に頭が追いついていかない。
俺の着替え?用意されてるって…一体いつまで?
1週間?1か月?まさか…1年!?
おろおろと満さんを見ると、彼も動揺を隠せないのか目が泳いでいた。
花嫁修行って何だ?何するの?
満さんと離れて、ここで1人?
俺は一体、どうなるんだ!?
「それでは…起床は朝5時半。その日のスケジュールは追ってお伝えします。
その時間まではお客様ですからごゆるりと。」
パンパンッ
聡子さんが手を鳴らすと、襖がスルスルと開いて、お膳に乗った料理が運ばれてきた。
時代劇に出てくるやつだ!
朱塗りに金の模様が描かれた、見るからに重厚な年代物のお膳。
その上には焼き鯛や刺身、煮物に紅白のなますなんかが乗っていた。
それらを盛り付けてある器も、漆塗りで鶴亀の豪華な絵が見てとれた。
鯛に紅白、鶴亀、とくれば…完全に祝膳じゃん!
…ということは、聡子さんは俺達のことを認めてこの準備をしてくれてた、ってことなのか?
それを見た満さんが
「聡子さん、ありがとう。
檸檬のこと、お手柔らかにお願いします。
でも…黒原が伝えたのは今日なのに何故何もかもご存知で?」
「私の情報網はあらゆる所にございますから。
いつかこうなると準備をいたしておりました。」
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