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聡子さん⑥
ちょっと待って…何でバレてる?
って言うか、俺と満さんが想いを寄せたのは…
俺が自分の気持ちに気付く前から分かってたってこと!?エスパーか。
それに、社内に聡子さんの手足となって動く人がいるってこと!?
忍者かっ!?
俺は改めて聡子さんを見た。
満さん達の話によると年の頃は70前後か。
ピッと伸びた背筋と顔の張り艶は、見た目以上に彼女を若々しく見せ、所謂『美魔女』という部類のひと。若い頃は相当モテたに違いない。
所作のひとつひとつが美しくて上品だ。
何もかも見透かしたような瞳は、抗えない光を放っている。
明日からどんなことが待ってるんだろう。
花嫁修行なんて、一体いつの時代の言葉なのか。
それに、俺は男なんだよ!?
満さんと、それに頼れる黒原さんとも離れて、俺、大丈夫なんだろうか。
「檸檬さん、どうぞ。」
ぼんやりと不躾に見つめていた俺を咎めることなく、聡子さんがお銚子を持って正面に座っていた。
「あっ、ありがとうございます。
でも、私は…」
「お祝い事ですからひと口。金山家自慢の梅酒ですから、ぜひ。」
おずおずとガラスのお猪口を差し出すと、ほんの少し注いでくれた。甘酸っぱい匂いが鼻腔を擽った。
甘くトロリとした液体が、胸を焼いて胃に落ちていく。
「…美味しい…」
「それはようございました。
これの作り方もお教えいたしますから。
檸檬さん、満様をしっかりと支えて幸せにして差し上げて下さいませね。」
「あの…反対、なさらないのですか?
私で良かったのですか?」
「過去に何人も男色の当主がおりましたから。
何よりも当主本人が選んだ方なら、余程の問題がない限り反対はいたしませんよ。
反対したほうが良かったですか?」
悪戯っぽく言われて、慌てて首を横に振った。
「受け入れていただいて…驚いています。
私は男で、おまけに何の取り柄もない普通の人間ですから。
家柄だって、至って普通です。」
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