49 / 371

聡子さん⑥

ちょっと待って…何でバレてる? って言うか、俺と満さんが想いを寄せたのは… 俺が自分の気持ちに気付く前から分かってたってこと!?エスパーか。 それに、社内に聡子さんの手足となって動く人がいるってこと!? 忍者かっ!? 俺は改めて聡子さんを見た。 満さん達の話によると年の頃は70前後か。 ピッと伸びた背筋と顔の張り艶は、見た目以上に彼女を若々しく見せ、所謂『美魔女』という部類のひと。若い頃は相当モテたに違いない。 所作のひとつひとつが美しくて上品だ。 何もかも見透かしたような瞳は、抗えない光を放っている。 明日からどんなことが待ってるんだろう。 花嫁修行なんて、一体いつの時代の言葉なのか。 それに、俺は男なんだよ!? 満さんと、それに頼れる黒原さんとも離れて、俺、大丈夫なんだろうか。 「檸檬さん、どうぞ。」 ぼんやりと不躾に見つめていた俺を咎めることなく、聡子さんがお銚子を持って正面に座っていた。 「あっ、ありがとうございます。 でも、私は…」 「お祝い事ですからひと口。金山家自慢の梅酒ですから、ぜひ。」 おずおずとガラスのお猪口を差し出すと、ほんの少し注いでくれた。甘酸っぱい匂いが鼻腔を擽った。 甘くトロリとした液体が、胸を焼いて胃に落ちていく。 「…美味しい…」 「それはようございました。 これの作り方もお教えいたしますから。 檸檬さん、満様をしっかりと支えて幸せにして差し上げて下さいませね。」 「あの…反対、なさらないのですか? 私で良かったのですか?」 「過去に何人も男色の当主がおりましたから。 何よりも当主本人が選んだ方なら、余程の問題がない限り反対はいたしませんよ。 反対したほうが良かったですか?」 悪戯っぽく言われて、慌てて首を横に振った。 「受け入れていただいて…驚いています。 私は男で、おまけに何の取り柄もない普通の人間ですから。 家柄だって、至って普通です。」

ともだちにシェアしよう!