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聡子さん⑦

「存じております。調ですからご心配なく。 …さて、檸檬さん。 金山家の、満様の伴侶として相応しい振る舞いができるように、この門脇聡子(かどわきさとこ)がきっちりとお教え致しますから。 ご覚悟召されよ。」 最後の言葉に、背筋がぴ――んと伸びた。 『全て調査済み』…その上で俺を受け入れているのか…一応、合格ラインに達したということか。 明日から始まるのは、生半可な修行ではない。 恐らく…礼儀作法は元より、代々伝わる『金山家の味』とか、茶華道、遡ってその歴史なんかも叩き込まれるんだろう。 俺の高校は何かのモデル校だったせいもあるのか、授業で3年間通して茶道や華道を習った。 少しかじった程度だが全くのど素人という訳ではない。 正座も苦にならない。 一人暮らしも長いから、ある程度の家事もできる。 そして(これはこっそりと言いたい)手芸部の副部長をしていたから、裁縫は得意中の得意だ。 何とかなるか、いや、何とかしないと! 俺は座布団を外すと、両手をついて再度聡子さんに言った。 「不束者ですが、ご指導よろしくお願い致します。」 聡子さんは、ころころと笑うと 「檸檬さん、楽しみにしていますよ。 さ、もう一献(いっこん)どうぞ。」 俺は操り人形のように再びお猪口を差し出すと、今度は先程よりも並々と注がれた。 鼻を擽る極上の甘い香り。 嫁イジメのスタートか?それとも歓迎の印か? 「ありがとうございます。」 にっこりと微笑んで飲み干した。 バチッと火花が散った気がした。 上等じゃん。 受けて立ちますよ、聡子さん。 俺はただのかわいい嫁ではありませんから。 不敵な笑みを浮かべる俺達を黒原さんがハラハラしながら見守っている。 満さんは………そっと横を向くと俺をじっと見つめていた。 『お前を信じている』 物言わぬ声に俺は頷いた。 その瞳は優しくて力強くて、それだけで俺は勇気100倍ゲージ満タンになった。 さあ、何処からでもかかって来い! 「いただきます!美味しそうですね。」 腕まくりしたい気分のまま、堂々と祝膳に手を付けた。

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