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修行スタート!⑩

案内されたのは『衣装部屋』だ。 毎日埃を払い、畳を拭き上げる部屋の一つ。 聡子さんは、ずらりと並んだ箪笥の引き出しを幾つか開けて、中から7〜8枚引っ張り出して畳の上に置いた。 すっと、たとう紙の紐が解かれていき、黒、紺、ベージュ、薄緑、焦げ茶…といった渋そうな浴衣が現れた。 男性が好みそうな色は全て揃ってるじゃん。 1番のお気に入りはどれなんだろう… よく見ていくと、紺地に細く白い縞模様の生地が1番着慣れているようで、何度か洗濯をしているような雰囲気がした。 あとは…似たり寄ったりか。 「これ…満さんのお気に入りですか?」 「よく分りましたね。そうです。」 そうか、こういうのが好みなのか。 でも同じ物はいらない。 俺が満さんのために、たったひとつのとびっきりの物を作るんだ! 「ありがとうございます。参考になりました。」 聡子さんは頷くと、紐を括り直して片付けた。 そして俺を真正面から見つめると 「檸檬さん。」 「はい。」 「冷蔵庫に保冷剤があるから、必要な時はお使いなさい。」 「………?」 「目を冷やしてから寝ないと、また腫れますよ。」 「あ………」 聡子さんはそれだけ告げると衣装部屋を後にした。俺も慌ててその後ろ姿を追い掛けた。 バレてた。 俺が泣いてたこと。 その場にいなくても、俺のこと凄く観察してる。 いいことも悪いことも、失敗も出来たことも、きっと。 多分、あの3人にされたり言われたりしてることも全て。 見守ってもらっている。 そう思うと、不覚にも涙が滲んできた。 泣き腫らした目では、細かな縫い物はできない。 今夜は絶対泣いたりしない。 満さんのお気に入りの1枚になるような物を作りたい! 俺は袖で涙を拭き取ると口を真一文字に結び、夕食の手伝いをしに台所へ向かった。

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