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手芸店にて②
俺と社長の関係は濁して伝えなかった。
言えなかったんだ。
それでも、話を聞き終えたすみれさん達は席を立つと、両手一杯の反物を抱えて、机の上に並べた。
「うちにある紳士用浴衣生地はこれで全部。
檸檬君が見た色柄の似たような物を外していくと…えーっと、これ、これ、これ……残ったのはこの3点ね。」
残ったのは白地にトンボ模様、茶色地の格子柄、黒地に細かなラメが入った物…
うーん…どれもイマイチ…浮かない顔の俺達。
どうしよう。ここになければきっと他の店にもないと思う。ここはそれだけ種類が豊富な人気店なのだ。
「困ったわね…その方は余程衣装持ちなのね…
自慢じゃないけど、うちになければ他のお店には置いてないわ。」
がっくりと肩を落とした俺に、大畑さんが気の毒そうに言った。
外した中から選ぶしかないのか、それとも聡子さんに相談しようか、いや、それはない…どちらにしても俺の思いとはかけ離れてしまう。
すみれさんはじっと何か考えていたが、突然
「そうだっ!アレがあるっ!
檸檬君、ちょっと待ってて!」
そう叫ぶと、奥に引っ込んで行った。
俺と大畑さんは無言で顔を見合わせて首を傾げていたが
「きっと店長に何かいい考えがあるのかも。
待っていましょうね。」
と、優しく声を掛けられて少し気持ちも落ち着いた。
そして……
「お待たせーっ!檸檬君、これはどう?」
手に持たせてくれたのは、紺色に細かな格子柄が入ったもの。
あれ?
紺色なのに角度で地色が微妙に紫に変わる。
凄く綺麗だ。
「店長、これは?光の加減で色が変わってる。
凄く綺麗です!」
「これはね、微塵格子 っていう柄で細かい格子柄なの。
色が変わって見えるのは、古代紫っていう渋めのくすんだ紫の糸も使ってるからよ。
麻と綿の混合でシャリ感があって少しちぢみが入ってて、肌触りも抜群!
上品な大人の男性にピッタリだと思うわ。」
「うわぁ、素敵!
店長、こんな素敵な生地、何処に隠してたんですか?」
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