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手芸店にて③
大畑さんも、俺の手元の生地に食い付いている。
「ふふん。いい生地でしょう。
去年、母の実家を改築する時に要らない物を処分したんだけど結構古い家でね、随分とお宝が眠ってたの。
仕立ててない反物やら骨董品やら色んな物が出てきて、親戚一同で分けたのよ。
そのうちの一点。
いつか日の目を見る時がくるかも、って倉庫にしまっておいたの。
これも何かのご縁。古い物で申し訳ないけど、檸檬君、あなたさえ良ければお譲りするわ。」
「えっ!?そんな大事な物いいんですか?
俺的にはこれが1番なんですけど。」
「檸檬君、甘えて譲ってもらいなさい!
どう見ても、うちの反物の中で断トツに値の張る“いいやつ”よ!
ね、店長!?」
「ええ。そういう訳だからお値段はつけられないんだけど…さっき聞いた予算からすると、うちの浴衣生地の最高金額を知ってる上でお金を渡されたみたいだし…どうやら依頼した方は、檸檬君がここに来ることを予想してて、うちのこともよくご存じらしいわね。流石にコレまでは考えてはいなかったのでしょうけど。
多分、ここにある商品の中から檸檬君が選ぶであろう生地も見当がついてたような気がするわ。
檸檬君、この中からならどれを選ぶ?」
「うーん…そうですね………これかな。
うわっ、予算ギリギリだっ!」
「紳士用浴衣生地の中で1番お高い物よ。流石檸檬君お目が高い!…じゃあ、その値段でどう?」
「だって、値段も付けられないくらい価値のある物なんでしょう?
それなのに俺なんかにそんな大切な物を」
「檸檬君、あなただから譲りたいの。
『この子』もあなたが来るのを待っていたと思うの。連れて行ってあげてくれない?」
「でも……」
「きっと、あなたのために取っておいた気がするの。ね、檸檬君。素敵な浴衣に変身させてやって頂戴。」
「店長…………ありがとうございますっ!
俺、絶対に完成させます!」
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