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手芸店にて④

頭を下げる俺に、店長は優しく「頭を上げて」と声を掛け肩を叩いて 「お礼を言わなきゃならないのはこちらの方なのよ。 檸檬君がうちに来てくれるようになって、部員さんを紹介してくれたりSNSで宣伝してくれたり。 そこから広がって、その親御さんやら小さなお子さんを持つ若いママさん達が大勢来てくれるようになったの。 本当はね、あの頃本当に経営も厳しくて。 あなたのお陰でここまで愛されるお店に変わったのよ。 今では簡単な教室も開くようになって、評判を聞いたお客様が遠方からも来て下さるようになってるの。 未だにずっと手芸部の子達はうちを御用達にして贔屓にしてくれてるし、教室のお手伝いにも来てくれてるのよ。 檸檬君、本当にありがとうございました。」 俺は自分のことだけで目一杯で、周りのことが見えてなかったんだけれど、気が付くといつの間にか店内は年齢を問わず多くのお客様で賑わっていた。 さっきまで俺達と一緒に選んでくれていた大畑さんも、他のスタッフさんとその対応に追われていた。 「俺…少しは貢献できたんですか?」 「少しどころか! だから、私も檸檬君の役に立ちたいの。 …お嫁に貰って頂戴、ね?」 満面の笑顔の店長にぐいぐい反物を押し付けられて……負けた。 「ありがとうございますっ!遠慮なく頂戴します! とびっきりの浴衣、仕上げて見せます!」 「こちらこそ。 仕上がったら見せて頂戴ね。LINEでいいから。」 俺は反物をしっかりと受け止めて頷いた。 それから糸を選び、平身低頭お礼を言って店を後にしたのは、帰り着くギリギリの時間だった。 ずっしりと重みのある袋。 店長の思いのこもったこの生地が、満さんの浴衣に生まれ変わる。 絶対にお気に入りの1番になって愛してもらうんだ! 決意も新たに俺はバスに揺られていた。

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