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心配性の当主④
とはいえ。
ふとした瞬間に、檸檬の泣き顔が浮かんでくる。
あの四婆 に、何かと難癖をつけられて虐められているのではないか?
単なる思い過ごしならばいいのだが。
俺が愛してしまったせいで、家の事情に巻き込む結果になってしまった。
檸檬の実家への挨拶すらまだだというのに。
いや…あの聡子さんのことだ。その辺は抜かり無く手配を済ませているに違いない。
そうでなければ“修行”なんてさせる訳がない。
それについては俊樹も何も言ってこない。
尋ねても
「俺は何も聞かされていないんだ。」
と申し訳なさそうに言うばかり。
本当に知らされていないのか、知らないフリをしているのか…
檸檬…この先、お前の笑顔が失われるような事態になるなら、俺は躊躇なく家も会社も捨てる。
いくらヘタレでもその覚悟はあるんだ。
俺達2人が暮らしていくくらいの蓄えなら十二分にあるから。
俺はお前の笑顔だけ見ていたい。
檸檬…マイナスの気持ちを吐き出してすまない。
でも、会えない日々が辛いんだよ。
毎日どれだけお前の笑顔に癒されていたのか、しみじみと感じる。
あぁ…等身大の檸檬人形でも側に置きたい気分だ。
檸檬、愛してる、愛してるよ。
バシッ!
「痛ぇっ!」
「まーた凹みやがって。目を離すとすぐこれだ。
せっかく立派に成りかけてんのに、ゼロからスタートするつもりか?」
「俊樹…」
「あーぁ、もう、泣くな。しっかりしろよぉ…
箸にも棒にも引っ掛からないようなコなら、とっくの昔に聡子さんから追い出されて帰されてる。
そうなってない、ってことは、聡子さん達のお眼鏡にかなって、その上シゴキに耐えてるってことなんだぜ?
たいしたもんだよ、あの子は。
普通なら根を上げて逃げ出してるぞ。」
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