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本領発揮(1)

side:檸檬 コレを見たら、聡子さんはどんな反応をするんだろう。 へへっ。見てろよ。 店長の、大畑さんの思いもこもったこの大切な布地。100%どころか200%活かしてみせるから。 檸檬様の腕の見せ所だ。 考えると……茶華道とか、今まで無駄だと思ってた学生時代に習ったことが…こんな形で役に立つなんて。 何でもチャレンジって必要なんだ。 俺が手芸部に入ったキッカケは、同じ高校に通うひとつ上の従姉妹の強引な泣き落としだった。 「れーもーん!お願い、一生のお願いっ! 何でも言うこと聞くから、お願いっ!」 「(ひー)ちゃん、何?その物騒なお願いは。」 「あと1人、あと1人なの! 部の存続が掛かってるの!お願い!力を貸して! アンタしかいないの!お願いっ!」 つまりは、定員を割れば『部』ではなく『同好会』扱いされて予算も取れなくなる。 公的なものではないから顧問もつかない。 友人達に声を掛けるものの、あと1人という段になって、最終的に俺のところへ来たらしい。 「えー…だって俺、もうバド部に入ろうと思って」 「ダメぇっ!!却下っ! アンタは私の言うことを聞けばいいのっ! …ねぇ、檸檬…私とアンタの仲でしょ? お願い、お願い、お願いっ! 神様檸檬様、どうぞどうぞお聞き届けをっ!」 大声を張り上げるひーちゃん。 何だ何だと野次馬が群がる1年生の廊下で、ひーちゃんは遂に土下座した。 「ちょっと、ひーちゃん…止めてよ…皆んな見てるじゃん…ねぇってば、ひーちゃん!」 肩を揺さぶり顔を上げさせようとしても、ひーちゃんはびくともしない。 周囲からは俺を責めるような言葉と視線が飛んでくる。 何で?俺が悪者?何で? パニクる俺は、悪友の剛志に肩を叩かれた。 「どうした檸檬?あー、従姉妹のひーちゃんじゃん! ひーちゃん、何やってんの?皆んな見てるぜ。 ちょっとちゃんと説明してよ。」 「つーよーしー!俺も訳分かんないっ! 助けてっ!」

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