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本領発揮(2)
ガバッと顔を上げたひーちゃんは
「あっ、つよっぴー!丁度いいわ!
アンタも檸檬と一緒にうちに入部決定ね!
やったぁー!2名、ゲットだぜ!」
俺達は○ケモンか。そこには網を破ってくれるマスターもいなかった。
やんややんやの喝采の中、巻き込まれた剛志と共に有無を言わさず拉致されて入部届を書かされ…結局3年間籍を置いたのだった。
嫌々ながらの入部だったけど、元々手先も器用で性に合っていたのか、色んな物を作り上げていくのは楽しかった。
その間にクラスの女子に頼まれて、ワンピースやら浴衣やら数え切れないほど縫った。最初揶揄っていた野郎共にも短パンとかおねだりされた。
お陰で腕はどんどん上がり、そっち方面に進もうかと思ったくらいだった。
それでも大っぴらに『手芸部』だと名乗るのは小っ恥ずかしくて、剛志と影の入部者として振る舞っていた。とは言え、俺達のことなんて校内で知らない者はいなかったんだけど。
気持ちの問題だ。
幾つか手芸店を巡った挙句に知り合ったのが、すみれさんのお店だった。
俺が行き始めた頃は、何となく活気がなかった。
種類も豊富、技術も知識も豊富。
それなのにこのイマイチ感は何だろう、って不思議だった。
よく聞くと、お婆ちゃんのお店を引き継いで、忙しい中家事の片手間にやってる二足のワラジ店だった。
ご主人は反対していたらしい。
お店を大事にしたいけど、人を雇う余裕もなく、苦労する割には大して売り上げも伸びず、観念して廃業しようとしてた頃だった。
俺はすみれさんの人柄に惚れて、何とかしたいと思った。
それで部員達にも協力してもらい、知恵を出し合って……今では地域No.1の人気店になっている。
さっきこっそり聞いたところによると、あれだけ反対していたご主人も、今では良き協力者として家事の手伝いも進んでしてくれるようになった、って喜んでた。
細い糸が絡まるように縁が繋がってる。
その結果がこれだ。
俺は布地の入った袋をぎゅっと抱きしめて「ありがとう」と呟いた。
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