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本領発揮(5)

「晩ご飯!?もうそんな時間ですか? ってか、俺、準備も何もせずにすみませんっ!」 「いいのよ。 それ縫ってる間は免除してあげる。 へぇ…いい生地ね。高かったんでしょう? 満様に似合いそうだわ。あなたが選んだの?」 「選んだというか……が俺のところへ来てくれました。」 「そう…のね。ねぇ、縫い物もできるの!? あなた、やるわねぇ。見直した。大したもんね。 私、実はあんまり得意じゃないのよ。 さ、皆んな待ってるから早くいらっしゃい。」 「はいっ!ありがとうございます!」 朱音さんに急き立てられて慌てて片付ける。 “今日はここまで。 ありがとう、明日もよろしく。” 手を合わせ心の中でお礼を言った。 そんな俺の様子を朱音さんは興味深そうに眺めていた。 「お待たせしてすみませんっ。」 「お腹空いちゃったー。」 「さぁ、いただきましょ。」 聡子さんは出掛けて不在だった。 今夜は順子さんが作ってくれたそうだ。 メニューは…カツ丼だ!俺の大好物で、結構テンションが上がっている。 小鉢には胡瓜とタコの酢の物と、じゃがいもとオクラの味噌汁が添えられていた。 いただきますっ 「……美味しいっ!」 とろっとした卵の火の入り方も絶妙だ。 物も言わずに、かっ込んでいく。 箸が進む進む。 「そう、よかったわ。」 今日は何故か皆んな和やかだ。 何かいいことあったんだろうか。 首を傾げながらも全て平らげた。 「あーっ、美味しかったぁ! 順子さん、今度カツ丼のコツ教えて下さいね!」 「ええ、いいわよ。 これ、満様もお好きなのよ。」 「えっ、そうなんですか!?じゃあぜひマスターしなくっちゃ。」 微笑みながら頷く順子さん達の様子に、今までとは違う近付いた距離感に、俺は正直戸惑っていた。

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