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心配性の当主⑥

また、檸檬の泣き顔が浮かんできた。 檸檬と離れて思い出すのは、最後の日に見た、大きな瞳を僅かに潤ませてそれでも必死に笑顔を作っていた泣き笑いの顔。 思い過ごしかもしれないが、あの時のLINEの僅かな時間差に、檸檬の思いが伝わってきた。 辛いんだろ? 理不尽な扱いを受けているのではないのか? 俺はお前と笑い合って過ごしたいだけなのに。 俺のせいで……ごめんな、檸檬。 絶対に弱音を吐かない檸檬。 いじらしい。 愛おしい。 会えない、触れることのできないもどかしさ。 目を閉じれば尚更その思いが強くなる。 俊樹が言うことも理解できる。その通りだと分かっている。 檸檬に恥じることのないように自分も強くならねばと、心に固く何度も何度も誓う。 その度、自己啓発セミナーみたいに、自分を鼓舞するプラスの思考を並べ立ててみる。 俺達2人が周囲の祝福を受けて、手を繋ぎ幸せそうに微笑み合う、そんな場面をイメージし続ける。 そうすると、鎧を纏った戦士のように、前へ前へと進むことができるのだ。 それでも―― 心に潜んだ黒いシミのようなマイナスの感情は、ふとした瞬間に顔を覗かせ悪さをする。 それは案外しつこくて、振り払おうとしても、いつしかそれに纏わり付かれて身動きができなくなる。 じわじわと浸食してくる嫌な感情は、少しばかりの感謝やヤル気を食い尽くしていく。 人間とは何と弱いものなのか。 地位も名誉も自由になるお金も、そんなものは役に立たないこともある。 時折感じる興味本位の視線と『色々大変ね』という異端者扱いの言葉には免疫ができているから、全く動じないし気にもならない。 『殿』に込められる揶揄いも、言いたければ勝手に言ってくれ、とスルーしている。 今まで大した苦労も知らずにここまできた。 正直言って俺は恵まれている。 俺をそして“家”をサポートしてくれる人達のお陰だ。 家を背負って繋いでいく責任も理解している。

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