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受け入れて認める(10)
「あら、ありがとう。ひょっとして…どら焼き!?
やったぁ!お茶入れるわ!
え?お礼?私、何かしたかしら?」
すみれは首を傾げながらお茶の支度を始めた。
「ええ。とてもいい仕事を。」
「えー?なんだろう…皆目見当がつかないんだけど…」
「あなた、あの浴衣地を誰かに譲ったでしょう?」
「浴衣地?ええ。私の大恩人が困ってたから、金額度外視でどうしてもその子に譲りたくて。
その方があの布も喜んでくれる気がしたの。
でも姉さんがどうしてそれを知ってるの?」
「満様の婚約者。」
「婚約者!?」
すみれはぽかんと口を開け目を瞬かせていたが、大声で叫んだ。
「ええーっっ!!うっそぉーっ!!」
「……すみれ、うるさい…耳が痛いわ。」
「ねっねっねぇ、婚約者ってどういうこと!?
まさか檸檬君が満様のお相手ってことぉ!?
うっそぉ!信じられなーい!えぇーっ!」
「そのまさかなの。
絶対ここに買いに来ると思ったし、あなたがいるからと思って任せていたんだけど…まさかアレを持って帰るなんて思いもしなかったわ。」
「檸檬君、言葉を濁して詳しいことは言わなかったんだけど
『とてもとても大切な人の浴衣を縫わせてもらうんです。だからオンリーワンの物でないと…』
って泣きそうになってて…そんなこと言われたら店長の名が廃るでしょ!?
あの子はうちの店の大恩人なのよ!
それで思い出したのよ。アレを譲れば良いって。」
「そうだったの。本当にありがとう。
お陰で今までで1番良いものが仕上がりそうよ。」
「それは良かったわ。
そのことのためにわざわざ来てくれたの?
お忙しい方の足を運ばせてしまってごめんなさいね、姉さん。
でも来てくれて嬉しい。」
「ふふっ。私も会えて嬉しいわ。
それでね、私の持っているあの対の物を檸檬さん用に譲ろうと思ってるの。」
「ホント!?素敵じゃない!」
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