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お目通り(1)

あの日以来、満さんの“泣き言メッセ”は来ない。 たった一度、満さんが吐き出した思い。 次の日からは相変わらず、俺に対する思いと自らを鼓舞する言葉が並んでいる。 あの時、慰め合えば良かったのか。 でも、あの時の俺は、そうしてはいけない気がした。 俺まで一緒になって求め合えば歯止めが効かなくなって、本家(ここ)を飛び出したかもしれない。 それ程に俺達は切羽詰まっていた。 だから。 だから敢えて突き放した。 冷たい奴だと思っただろうな。 嫌われたら……どうしよう… 「…さん、檸檬さんっ!」 「うわっ、はっ、はいっ!」 「ぼんやりしちゃって…そのお皿割っちゃうわよ!」 「うわっ…すみません。」 「聡子さんが部屋でお呼びよ。ここはいいから、早く行ってらっしゃい。」 「聡子さんが?はい、ではお願いします。」 朱音さんに笑われながらも後のことはお願いして、聡子さんの部屋に向かった。 「檸檬です。失礼します。」 「どうぞ。」 きちんと整理された清々しい空気の部屋。 聡子さんらしい。 一輪挿しにはりんどうが生けられていた。 「そこへかけて。 明日、満様のお父様に当たる御隠居様がお戻りになります。勿論奥様も。 その時にお目見えしますから、準備をお願いしますね。」 「え…満さんのご両親!? 準備って……俺、何をすればいいんですか!?」 「檸檬さんはそのままでいいのよ。 ご挨拶だけきちんとすれば。」 「…きちんとしたご挨拶って……どうすれば」 「あなたらしくあればそれでいいんです。 取ってつけたような、おべんちゃらはあの方には通用しませんから。 色々聞かれると思うけど、素直に答えるといいわ。」 「どうしよう…緊張してきた…」 聡子さんは、ふふっと笑うと 「檸檬さん、今日で修行は終わりです。 よく精進しましたね。」 「え?」

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