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お目通り(3)

それから、追い立てられるように部屋に戻され、身の回りの細々した物を纏めるようせっつかれた。 「こちらで用意した衣類や備品も全て檸檬様のものですから、必要な物は全てお纏め下さい。。 シーツ等の洗濯物はこちらの籠の中にお入れ下さいね。 不要な物は処分しますのでお申し付けを。」 今までとは明らかに違う態度と言葉遣いに、俺は相当戸惑っていた。 完全に俺の方が上の扱いだ。 これが…満さんの婚約者としての扱いなのか。 纏め終わって掃除をしようと雑巾を持った瞬間 「檸檬様、それは私共が。」 と止められ、客間へと連れて行かれた。 案内された部屋は、ここに最初に来た時に通された所だった。 調度品も新たに設えてあり、床の間は水墨画だったのに、若冲だろうか、ころころのかわいい犬の掛け軸が掛かっていた。 こんな高価な物をさり気なく客間に飾るなんて。一体どんなお宝を所蔵してるんだろう。 ぶるっ。そんな所にヨメに来るなんて。 早まったか… 「檸檬様、こちらでお寛ぎ下さい。 すぐにでも満様にお伝えしたいでしょうが、我慢して下さい。私から明日お伝えします。 そうでないと、あの方は仕事を放り出して速攻こちらに向かわれますからね。 黒原が泣きついてきては困りますから。」 「確かに…」 ぷぷっ 顔を見合わせて、聡子さんと大笑いした。 「…承知しました! 明日には会えるのですよね? では、満さんへの連絡は聡子さんにお願いします。」 「はい。お任せ下さい。 明日のお目見えには、そちらのクローゼットに掛かっているスーツをお召し下さい。」 「え?スーツ?」 クローゼットを開けると、俺が着ていたスーツの隣に、見るからに高級感の漂う生地のスーツ他一式が現れた。 「これは…」 「手芸店の店長からのオーダーメイドのお祝いです。 伝言を言付かっております。 『おめでとうございます。 今後ともうちをご贔屓に。』 すみれが心を込めて縫いましたの。着てやって下さいますか?」

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