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お目通り(4)
俺は合点がいかなくて目をパチパチと瞬かせた。
「……手芸店の店長って、すみれさん?
呼び捨て、ってまさか、あなた方お2人は…」
「はい。5才違いの姉妹ですの。
あの子も本家 に通っていたのですが、あのお店と掛け持ちで大変だったんです。
そんな時に檸檬様、あなたがあの店を復興するきっかけを作って下さった。
それで本家のことは若い世代に託して、店を続ける決心をしたんですよ。
恐らくサイズはぴったりのはず。
良ければ袖を通していただけませんか?
万が一お直しがあればすぐにでも呼び寄せますから。」
俺は声も出なかった。
反物のことがあったから、親戚関係だろうと思ってはいたが、姉妹とは!
「吃驚し過ぎて……ありがとうございます!
着替えてきます!」
一礼してハンガーを抱えると、隣の部屋に移動した。
紺と藍の中間色のようなスーツに、グレーと濃い紺色のネクタイ。
ネクタイの裏には『sumire 』というタグが付いている!
スーツだけじゃなくてネクタイまでオーダーメイド…
「すみれさん、ありがとうございますっ!」
泣きそうになるのを堪えながら、急いで身に付ける。
ダメだ。
涙腺が緩くて仕方がない。とにかく泣くのを我慢して着替えた。
「……ぴったりだ……」
こんなにしっくりと身に添うスーツなんて着たことがない。
いつの間に採寸したんだろう。きっと聡子さんが何かしら手を打ったに違いない。
隣の部屋に戻り、聡子さんの前に正座した。
「聡子さん…ぴったり過ぎて…本当にありがとうございますっ。
俺、何てお礼を言えばいいのか……」
「お気に召していただけたなら、すみれも大喜びです。必ず伝えます。
檸檬様、夕飯ができましたらお声を掛けますので、ごゆっくりとなさって下さい。
お湯も張っておりますから、お好きな時間にどうぞ。
では。」
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