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お目通り(5)

聡子さんが出て行っても俺は暫くその場から動けなかった。 あっ、スーツがシワになる! 慌てて脱いで、ハンガーに掛け直した。 全く表に出ない丁寧な糸目。 ボタンの裏の始末も完璧だ。 「すみれさん…俺なんかのために……」 応援されてる、見守られてる。 満さんの伴侶として務まるように、お膳立てしてもらってる。 ありがたいなぁ。 急いで、取り急ぎお礼のLINEを打った。 後で落ち着いたら電話させてもらおう。 明日はこれを着てお目通り……って言ってたけど。 満さんのご両親って、どんな人達なんだろう。 両親、といえば……… ああぁぁーーっ! 全く忘れていた……うちの両親っ!!!! ヤバい、報告も説明も何もしていない。 今更だけど。どうしよう。 俺が男性(満さん)と結婚するって言ったらぶっ倒れるんじゃないだろうか!? いや、その前に反対されるに違いない! そうだ!聡子さん! 聡子さんに相談すれば、絶対に解決する(と思う)! 慌てて聡子さんを探しに部屋を出た。 この時間ならまだ自分の部屋か? 「聡子さん?檸檬です!今、よろしいでしょうか?」 すぐにドアが開いて、息を切らせる俺を見た聡子さんは 「どうぞ。」 と招き入れてくれた。 先程とは違う、上座に座るよう勧められ、素直に従った。 「檸檬様、内線をお掛け下さればすぐにお伺いしましたのに。」 「いえ、あの、その、俺、うちの両親にまだ何も」 「ご心配ご無用。 既にご快諾いただいておりますから。」 「ふえっ!?」 「どちらも懐の広い方達で。 『檸檬が幸せになるなら』と仰っておられましたよ。 あの親にしてこの子あり。 とても愛情深い、ご立派なご両親ですね。 それにしても檸檬様。 今頃思い出されたのですか?」 揶揄うように言われて弁解した。 「何か…もう、今まで必死で…思い付きませんでした。」 「ほほほっ。 ですから、何の問題もございませんよ。」 がっくりと力が抜けた。

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