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お目通り(7)
いつもの時間に目が覚めた。
掃除道具が何処にあるかなんて分かってる。
せめても、と部屋の掃除を始めた。
一通り終わった頃、声を掛けられる。
「檸檬様、おはようございます。朝食ができております。」
「おはようございます。
ありがとうございます。今行きます。」
瞳さんと連れ立って廊下を歩く。
「客間の掃除は終わったので大丈夫ですよ。」
「まぁ、檸檬様!私達がお叱りを受けますからそんなことはしないで下さいね!」
「ごめんなさい、つい…」
「そんなところが檸檬様らしいんですけどね。
ありがとうございました。では今日は遠慮なく客間は省かせていただきます。」
ふふっ、と笑う瞳さんは、あの意地悪をしていた頃とは別人みたいだ。
品数の多い朝食を全て平らげてコーヒーを飲んでいると、聡子さんがやって来た。
「檸檬様、おはようございます。
10時に御隠居様が到着されますが、今はまだお客様の立場ですから玄関でのお迎えの必要はございません。そのままお部屋でお待ち下さい。
準備が整いましたらお呼び致します。」
「おはようございます。承知致しました。
よろしくお願いします。」
聡子さんはにっこりと微笑んで退座した。
ふうっ……緊張するな。そう言っても出されたご飯全部食べちゃったし。
俺、案外図太いのかも。
「ご馳走様でした」と声を掛けて、部屋に戻った。
満さん…会いたいな……いつ会えるんだろう。
今日も会議か商談か。忙しいんだろうな。
聡子さんが伝えてくれると言ったけど、まだLINEがないということは、知らないんだろうな。
昨日までの慌ただしさから一転、自分の時間がたっぷりとあって1人になると、今まで考えなかったことが一気に押し寄せてくる。
と同時に、失敗したらどうしようとか、気に入られなかったらどうしようとか、マイナスのイメージに支配され始めていた。
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