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お目通り(8)

そうこうしているうちに、何となく玄関周りが慌ただしい気配がしてきた。 ここに来てから特にそういうアンテナの感度が良くなり過ぎの感がある。“気配りアンテナ”がずっと発動しているような気がしてならない。 それだけ気を張り詰めている、ということか。 あぁ、きっと到着されるんだ… いつ呼ばれるんだろう。 何を話せばいいんだろう。 ここにきて『やっぱりあなたは不合格』なんて言われたら、俺は一体どうすればいいんだろう。 そろそろ準備しなくちゃ。 気の進まぬままのろのろとスーツに着替え、ネクタイを手に取った。 『sumire』 ネームタグが目に飛び込んできた。 そうだ! このスーツ達に恥じない振る舞いをしなくては、すみれさんの思いも無駄にすることになる! しっかりしろ、檸檬。 聡子さんも『よく頑張りましたね』って言ってくれたんだ。 俺は俺らしく。 ありのままの俺を見て貰えばいいんだ! きゅ、とネクタイを締め、改めて鏡に向かう。 少し不安そうな顔の俺が映る。 ぱんっ 両頬を軽く叩いて気合注入。 大丈夫、大丈夫。 何度か深呼吸するうちに、いつもの俺に戻ってきた。 ノックの音と俺を呼ぶ声。 「はい。」 「ご案内致します。」 順子さんが控えていた。 よろしくお願いします、と答えると、順子さんは大きく頷いた。 そして、俺の目を見て微笑みながら呟いた。 「ご武運を。」 頷いてその後ろをついていく。 まるで出陣のよう。そう、これは俺にとっての初陣だ。 もう、迷わないし卑下しない。 俺は、金山満の婚約者だから。 通されたのは今まで立ち入りを禁止されていた部屋。 うわぁ…空気が違う。格が違う。 床の間を背に少し段差があるのは、まるで時代劇かTVコメディでよく見る上段の間というやつか!? すっごーーい! ここは“お上専用”の部屋なんだろう。 俺がいる客間も凄いが、置かれている家具も調度品も、素人の俺が見ても『更にいいもの』だと分かる。

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