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お目通り(16)
そして俺の方を見ると
「多分そうなるだろうって、晩御飯はお重に詰めてくれてるんだってさ。持って帰れるように準備してくれてる。
あのひとには敵わないよな。全て読まれてるよ。
さ、纏めたら帰るぞ、俺達の家に。」
本当に、顔から火を噴きそうになった。
聡子さんには何でもモロバレだ。
満さんの行動も俺の思いも。
恥ずかし過ぎて顔見れないかも。
ん?俺達の家?
「満さん、俺達の家って?」
「俺と檸檬の新居さ。
新居と言っても俺が元々住んでるから…ほら、早く早く!」
「でも、お義母さんと『明日の朝食一緒に食べましょうね』って約束したのに。」
「あの人だってこうなることは想定内だよ。
後のことは聡子さんに頼んであるから心配いらない。
それにここにはまた何度でも来るんだから。
ほら、取り敢えず鞄に詰めて。」
急き立てられ、取り敢えず今まで使ってた物や着ていた物を詰め込んだ。
満さんは待ち兼ねたように鞄を持ち上げ、俺の手を掴むと、玄関へ急ぐ。
玄関には聡子さんを始め皆んなが待っていた。
「檸檬様、よろしければお召し上がり下さい。
温めればすぐに食べれる物が入っています。」
ずっしりと重い、紙袋を渡された。中には風呂敷に包まれたお重が入っていた。
「聡子さん、皆さん……本当にお世話になりありがとうございました。
至りませんが今後ともよろしくお願いいたします。」
「檸檬様、本当によく頑張られましたね。
私は久し振りに楽しゅうございましたよ。
こちらこそ、誠心誠意お仕えさせていただきます。
またお越しになるのをお待ちしております。」
丁寧なお辞儀に、こちらも丁寧に返す。
名残惜しむ暇もないまま、あれよあれよと言う間に、満さんに攫われるように助手席に押し込められ、お礼もそこそこに本家を後にした。
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