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重なる思い(1)
満さんの左手はしっかりと俺の右手を握っている。
片手運転なんて危ないからやめてほしいなんて、今日は言わない言いたくない。
もっとしっかり握りしめてほしい。
左手で、満さんの手をサンドイッチするように重ねた。
じわりと体温が移って同じ温度になっていく。
大袈裟かもしれないけれど、本当に久し振りに再会した上に、思いがけなくも両家に認められ婚約者となった今、身体の一部でも繋がっていないと、不安で怖くて叫びそうになっていた。
何から話そうか、説明しようか。
伝えたいこと、話したいことが山程あるというのに、喉奥で引っ掛かったようになって言葉が上手く出てこない。
ただ、繋がれた手の平の温もりを愛おしく感じているだけ。
心臓はバクバクと跳ねたままで、俺は大きく深呼吸を繰り返していた。
それは満さんも同じみたいだった。
信号で止まる度に俺を見て(その流し目は反則だ!)何か言いたげに唇を動かしかけるが、すぐに噤んでしまう。
早く早くと急く心。
2人っきりになればどうなるかなんて分かり切っている。そのために本家を飛び出してきたような訳で。
風呂へは先に入るべきか後からにするべきか。
そんなどうでもいいことまで、頭の中をぐるぐる回っている。
あれやこれやと取りとめのない、どうでもいいことを考えているうちに、お互いの思いが積もるのも感じられ、それでも無言のまま着いてしまった。
やはり無言でエレベーターに押し込まれ、いつの間にか恋人繋ぎになった手は熱く、じっとりと汗ばんでさえいた。
ガチャッ ガチャリ
ドアに鍵が掛かった瞬間、満さんが俺を抱きしめてきた。
「檸檬、檸檬、檸檬……」
切なげな声に、思わず身体がぶるりと震える。
布越しに触れ合う肌は熱を帯びて気が遠くなりそうだ。
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