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証(2)
「社長、嬉しいお気持ちは、ほんっとぉーーによく分かります。
ですが、ここは社内。
公私混同は避けてきちんとして下さいねっ!」
「…そうですよ。黒原さんの仰る通りです!…社長、離して下さい……」
それでも、黒原さんと俺のクレームにも動じず
「檸檬、何で『社長』って呼ぶんだ。
いつもみたいに『満さん』と呼べよ。」
なんて頭がお花畑になっている。
「社長、ここではあなたは社長、西山君はいち秘書。
べたべたらぶらぶするのはお家に帰ってからにして下さいっ!
…聡子さんに連絡しましょうか?」
びくっ、と身体を震わせた社長は、嫌そうに渋々俺を解放した。
聡子さん、どんだけ怖がられてるんだ……
「では本日のスケジュールの確認をいたします。
朝10時より、人事の赤石部長との面談……
昼食は池波商事の社長との会食…
14時からは……」
あぁ、今日もみっちりとスケジュールが埋まってるんだ。
メモを取りながら、ちらりと社長を見ると、何とも情けない顔をしている。
視線が合った。
途端に崩れるイケメンの笑顔。
きゅ、と咎めるように見つめると、両手で頬を擦って誤魔化していた。
「……以上です。
社長、お聞きになってらっしゃいましたか?
先程、西山君の“補充”は終わったようですので、先に社内関係の書類に目を通していただいて、決済を済ませて下さい。
西山君、コーヒー3人分いれてくれる?」
「そんなぁ〜」「はいっ!」
相変わらずの安定の秘書殿だ。
「…檸檬が足りない…ぐすっ…俊樹は意地悪だ…」
背後でそんな声が聞こえたが、敢えて無視してパントリーに向かった。
何やら社長と黒原さんの言い争う声がする。
このやり取りも、何だか懐かしい。
とびっきりの美味しいコーヒーを!と思って、ケトルに火をつけた。
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