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証(6)
単純な俺は、その単語で見事に復活した。
『黄金の果実』『金色の檸檬』
何てステキな響きなんだろう。
これで満さんに今まで以上にパワーを送ってあげれる!
嬉しい、嬉しいな。
黒原さんが、ご機嫌になった俺をによによと見つめている。
「あっ、そうそう。満から伝言。
『今日は絶対に定時で上がるから、ちゃんと待ってるように』
だってさ。
愛されてるな、西山君。
今日も一緒に出勤したんだろ?ま、どうせ一緒じゃなきゃ帰れないもんね。
じゃあ、俺達もさっさと仕事終わらせよう!
西山君がいないと俺も大変だったんだよぉ〜。」
「あの…俺、足手纏いとかじゃ…」
「なーに言ってんのさ!
俺の後を任せる大切な後輩だよ!?
君しかいないから。もっと自信を持っていいんだよ。
君に任せてある、君しかできない仕事もあるの。
さ、午後からも頑張るよ〜」
「はい!ご馳走様でした。ありがとうございました!」
黒原さんの後ろ姿を見ながら、俺も、他人をさり気なく労い鼓舞する、こんな人になりたいな、と思っていた。
午後からの業務は、黒原さんのフォローもあり何となく勘が戻ってきて、そつなくこなすことができた。
満さんの役に立つ、そう思ったら以前にも増してやる気が出る。
やっぱり、俺って単純!
それにしても、定時に帰ると言い残した満さんは戻ってこない。
残業決定か?
「浅田専務に捕まってるのかもしれないな。あの人雑談が大好きだから。
きっとイライラしながらも取引先だから邪険にできず、腰が浮いてるはずだよ。」
黒原さんが笑っている。
そして……定時5分前に帰社した満さんは
「俊樹、後頼む!時間がないんだよ。
檸檬、早く片付けろ!」
横暴。暴君君臨。
時間がないって何だろう。
挨拶も片付けもそこそこに、俺の手を引っ張り部屋を出た。
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