133 / 371
証(7)
助手席に押し込まれた俺は、別に約束した覚えもなく尋ねた。
「満さん、何処に行くんですか?」
「ふふん。ナイショ。」
満さんは車のギアを入れると、俺の右手を握ってきた。
「運転中は危ないですから、離して下さい。」
「………………」
無視された。代わりに手をぎゅっと握られた。
何を聞いても教えてくれない。
諦めて、手を握られたまま真っ直ぐ前を向いた。
そろそろ夕方のラッシュにかかる道は混み始め、皆忙 しなさそうに動いている。
車は渋滞に巻き込まれつつも、ある一件の店の駐車場に滑り込んだ。
「……『jewelry halfmoon 』!?」
訝しげに尋ねる俺に、にっこりと微笑んだ満さんは、素早く車を降りると助手席のドアを開け、俺の手を取った。
首を捻りながらも促されるまま車を降り、エスコートされて店内に入った。
ちょっと待って!これって女性にするみたいな!?
「いらっしゃいませ。」
あわあわする俺の前に、渋いイケメンが現れた。
満さんは俺の腰に手を回したまま、堂々と言い放った。
「予約していた金山です。
婚約指輪と結婚指輪をお願いしたいので、相談に乗っていただけますか?」
「お待ちしておりました。勿論です。ようこそいらっしゃいました。
こちらへどうぞ。」
ゆっ、指輪っ!?
席に案内され、彼が名刺を差し出した。
「私はここのオーナーの新藤 進 と申します。
この度はおめでとうございます。
数あるお店の中から、jewelry halfmoonをお選びいただきありがとうございます。
できる限りご要望にお応えさせていただきますので、何也とお申し付け下さいね。」
満さんはそれを受け取りつつ、自分の名刺を差し出した。
「私は金山満と申します。
この度ご縁がありまして彼と結婚することになりました。
ここなら満足のいくものを揃えて下さるとお聞きしていますので、是非にと思いまして。
分からないことだらけなので、いろいろと教えて下さい。」
ともだちにシェアしよう!