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証(10)
それからは夢見心地で。
左手薬指のサイズを測ってもらい、満さんと新藤さんが
「これは?」
「こちらは如何ですか?」
「もう少し細身のラインの方が」
「ではこちらのデザインは」
なーんて、あーでもないこーでもない、と次から次へと俺の指に嵌めては外し、嵌めては外し…という動作を繰り返すのをただひたすら見つめていた。
満さんと俺とを繋ぐ煌めきの輪。
じわりと胸が熱くなってくる。
「あ……」
「これだ!檸檬、これどうだ?」
2人同時に声を上げた。
美しいカットのダイヤが中央に一粒埋め込まれ、一見派手に見えるけどそれでいて控えめな上品な輝き。
角度が変わると、違う煌めきを放っている。
「奥様の上品で控えめなところに似てますね。」
新藤さんが、満さんにも手渡してくれて、2人の手を並べてみた。
「綺麗…」
「うん、これがいいな。婚約指輪はこれでお願いします。」
「承知いたしました。では、結婚指輪をお探ししましょう。」
そしてまた、さっきのやり取りが始まった。
結婚指輪も、満さんと俺の意見が一致して、新藤さんが
「本当にお好みもご一緒なんですね。
ここまで来て喧嘩を始めるカップルも多いのですが…今日は本当に良かったです。」
なんて揶揄われ何だか恥ずかしかった。
俺は心臓がドキドキしっ放しで、頭も上手く働いてなくて、新藤さんへのお礼もそこそこに店を後にした。
車中でハッと気付いた。
「満さんっ!」
「うわっ、どうした?檸檬?」
「ごめんなさいっ!!
指輪代っ!俺、値段も聞かずに決めちゃった!
どうしよう…あんな大きなダイヤがついたやつなんて、幾らするんですか!?
婚約指輪も結婚指輪も両方なんて……
キャンセル、間に合いますか?」
満さんは、ウインカーを上げて路肩に車を寄せた。
そしてシートベルトを外すと俺の頬を両手で挟んで自分の方へ向けた。
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