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証(13)

ふつふつとフライパンの中のソースが踊っている。 酸味のあるいい匂いがして、口の中にじゅわっと唾液が溜まってくる。 「美味しそう…満さん、俺、生唾出ちゃって大変です!」 「あははっ。もう少し待っててよ。 飛びっきりのやつ食べさせてやるからな。」 随分と手際が良くなってる。 俺が修行に行く前は、料理は全くだ、と、言っていたのに。 黒原さんにしごかれながら、きっと頑張ったんだろうな。その光景が浮かんできて、何だか切なくなった。 俺も頑張ったけど、満さんもそれ以上に色んなものを越えてきたんだ。 宣言通り、エスコートされて椅子に腰掛けた俺の目の前に、ほかほかの湯気の立つ、パスタが置かれた。 「さあ、召し上がれ。」 「満さんも一緒がいい。」 「分かった、すぐ準備するよ。でも出来立てを早く食べて。」 「「いただきます!!」」 「……どう?」 「美味しいっ!すっごく美味しいっ! 満さん、お店出せますよ!」 「店は大袈裟だよ。 でも喜んでくれてよかった。」 「お世辞抜きで本当に美味しいです! 俺はこんな味出せない。 これからトマトソースのパスタは満さんにお任せしますね。」 「おう、任されたぞ。 俺にだって得意料理の1つや2つあるんだからな。 時々はお披露目するとしよう。」 顔を見合わせてくすくす笑う。 取り留めのない話をしながら、ゆったりと味わう。 幸せな時間、幸せな空間。 これから先ずっとこのひととこうやって過ごしていけるんだ。 「…満さん…ありがとうございます。 俺をこんな満ち足りた思いにして下さって…」 「檸檬、それを言うのは俺の方だ。 こうやって……仲睦まじく暮らしていこうな。」 「はい!末永くよろしくお願いします!」 満腹のお腹を摩りながら、2人で流しに立って片付けをして、満さんはメールチェック、俺は明日の弁当の下ごしらえを始めた。

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