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証(15)
俺は黒原さんの袖を引っ張り、囁いた。
「黒原さん、襟元赤くなってますよ。
虫刺されですかね?薬ありますよ。持ってきますね。」
「えっ!?はぁっ!?……いっ、いや、いいんだ!
………大丈夫だから、気にしないで。気遣ってくれてありがとう。」
いつもの沈着冷静さは吹っ飛んで、耳まで真っ赤になり挙動不審になる黒原さん。
ん?
まさか……まさかソレって虫刺されじゃなくって…まさかのキスマーク!?俺にも身に覚えがある……
いやぁ、黒原さんの恋人って結構独占欲強くて激しいんですね、ギリギリ見えるか見えないかのところにつけるなんて……っていうか、やっぱり恋人いたんだ。
思わずソコを凝視してしまう。
俺の視線に気付いた黒原さんは
「あっ、そのっ、そういうのとは違うから。ねっ!?ねっ!?あのっ、勘違いしないで、ねっ!?」
強固に否定されれば否定される程ドツボにハマっていく。
今度は俺が真っ赤になり、何となく気まずくなって、小さな声で「スミマセン」と告げ、それぞれの業務に就いた。
そうか…黒原さんもプライベートを満喫してたんだ。
だから時々、嬉しそうにいそいそと定時に上がってるんだな。
満さんは知ってるんだろうか。
勿論知ってるんだろう。今度会わせてもらおう!
ダメだダメだと分かっていながら、結局その日1日中、によによと生温かい視線を黒原さんにろ送ってしまっていた。
そろそろ終業時間という頃になって、ハタと気付いた…………俺もこんな風に見られていたことに。
俺の方がもっと分かりやすくて情緒不安定で、側から見たら面白おかしかったんだなって。
人の恋路を邪魔する奴は……ううっ、クワバラクワバラ。
黒原さん、もう余計な詮索はしません。
ごめんなさい。
最後には反省した俺なのだった。
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