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結婚式(8)
遥さんが微笑みながら言った。
「心を込めて育て上げた大切な家族を手放すんです。
今日は万感の思いを込めて涙を流してもいいんですよ。」
そう言われると、俺まで何だかセンチな気持ちになってきて、ぐっと胸に迫る思いがして俯いた。
両親が望む結婚ではなかったかもしれない。
『普通の』親になって欲しかったのかもしれない。孫もその手に抱きたかったのだろう。
でも、俺の気持ちを一番に考えて、全てを許してくれた。
『これまで俺を愛して育ててきてくれてありがとう。』
面と向かって言ったことはないけれど、両親に対して改めて感謝が湧いてきた。
満さんが俺の手をそっと握りしめてきた。
ふと顔を上げると、優しい瞳が俺をじっと見つめている。
そうだ。
このひとと一生を歩んでいくんだ。
俺が愛して愛してくれる唯一のひと。
俺が選んだこれからの人生、もう迷わない。
俺も手をそっと重ねて微笑んだ。
「満さん、これからどうぞ末長くよろしくお願いします。」
「檸檬、こちらこそ。どうぞ末長くよろしく。」
くすくす笑い合ってじっと見つめ合う。
あぁ、相変わらずカッコいいなぁ。
式服だと男前度が格段にアップするんだよ。
俺なんて、何だか七五三に毛が生えた感じで、貧相に見えて仕方がない。
不意に満さんが耳元で囁いた。
「檸檬、俺と対のスーツだから自信持って!
めっちゃ似合ってるから!
凄くキュートで、俺このまま押し倒しそうでヤバい。」
「え!?それの方がヤバくない!?」
「さっきから抱きたくて抱きたくて、相当我慢してる。」
「…満さん…ハウス…」
真っ赤になりながら2人でコソコソ話していると、気を利かせてくれたのかいつの間にか遥さんが消えていた。
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